研究課題/領域番号 |
23540399
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
足立 匡 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40333843)
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研究分担者 |
小池 洋二 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70134038)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 超伝導材料・素子 / 低温物性 / 放射線・X線・粒子線 / 磁性 |
研究概要 |
本研究の目的は、鉄系超伝導体におけるスピン相関について詳しく調べ、銅系超伝導体におけるスピン相関との比較から、高い転移温度を示す超伝導体のスピン相関の共通点を明らかにすることである。これを達成するために、鉄系超伝導体と銅系超伝導体の高品質単結晶を用いて、ミュオンスピン緩和法から低温でのスピン相関の発達の有無を明らかにし、また、超伝導の電子対の対称性を決定する。 本年度実施した研究とその成果は以下の通りである。1.試料作製・評価 改良ブリッジマン法を用いて、鉄系超伝導体FeSe1-xTex(Fe系)のx=0.6-1.0の単結晶の育成に成功した。また、フローティング・ゾーン法を用いて、銅系超伝導体(Bi,Pb)2Sr2-xLaxCuO6+δ(Bi系)のx=0の単結晶の育成に成功した。次に、Fe系の単結晶の品質の向上を目指して、また、Bi系の単結晶のホール濃度の調整のために、様々な条件で真空アニールを施した。これらの結晶の品質をx線回折、ICP分析、電気抵抗率から評価した結果、全ての結晶が物性測定に用いるのに十分に高品質であることがわかった。2.物性測定 Fe系の単結晶を用いて、スイスPSI研究施設にてミュオンスピン緩和測定を行った。その結果、x=0.6と0.7において、磁場侵入長の温度依存性が定性的に異なることを見出した。このことから、超伝導の電子対の対称性がx=0.6と0.7で異なる可能性があると結論した。これは、Fe系の超伝導の発現のメカニズムに関する重要な知見である。また、基底状態での磁場侵入長の値から、xの増加とともに電子の有効質量が増大する可能性があると結論した。このことは、我々の試料を提供して行った光電子分光の実験結果と一致する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画にあった、Fe系とBi系の超伝導体の単結晶の育成に成功したこと、また、真空アニールを施すことで、高品質な試料が得られたことから、試料の作製はおおむね順調に進んでいると言える。一方、Bi系において、当初の計画にあったx>0の単結晶の育成はまだ成功していないため、次年度の課題とする。 結晶の品質の評価に関しては、x線回折、ICP分析、電気抵抗率の測定を行い、高品質であることを確認したため、おおむね順調に進んでいると言える。一方、EPMA分析は実施できなかったため、次年度に行う予定である。 物性測定に関しては、ミュオンスピン緩和実験のビームタイムの関係で、当初の計画では次年度に実施するはずであったPSI研究施設での直流ビームを用いた実験を実施した。その結果、超伝導の電子対の対称性に関する知見を得るなど、重要な成果を得たことから、おおむね順調に進んでいると言える。一方、当初の計画にあった磁化率の測定とパルスビームを用いたミュオンスピン緩和実験はほとんど進んでいないことから、次年度の早急の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、引き続きFe系とBi系の単結晶試料の育成に取り組む。その後、アニールを施して、これらの品質を評価する。特に、EPMA分析から、結晶内での元素の分布を詳しく調べる予定である。 Fe系とBi系の単結晶を用いて磁化率の測定を行い、反強磁性相とスピン密度波相の有無、磁気転移温度などを調べる。また、超伝導転移温度と超伝導の体積分率を評価する。 Fe系とBi系の単結晶を用いてパルスビームを用いたミュオンスピン緩和実験を行い、ミュオンスピン緩和スペクトルの温度依存性を詳細に調べ、スピン相関の発達、磁気秩序の有無、磁気転移温度などの情報を得る。必要に応じて、希釈冷凍機を用いて20ミリケルビンまでの測定を行い、磁気的基底状態を明らかにする。これらの実験は、英国RIKEN-RAL研究施設にて行う。また、本年度に引き続き、PSI研究施設においてミュオンスピン緩和実験を行い、超伝導の電子対の対称性や有効質量などに関してより深い知見を得ることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成24年度請求額とあわせ、次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
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