研究概要 |
本研究の目的は、鉄系超伝導体におけるスピン相関について詳しく調べ、銅系超伝導体におけるスピン相関との比較から、高い転移温度を示す超伝導体のスピン相関の共通点を明らかにすることである。これを達成するために、鉄系超伝導体と銅系超伝導体の高品質 単結晶を用いて、輸送特性から電子状態を、ミュオンスピン緩和などからスピン状態を詳しく調べる。実施した研究とその成果は以下の通りである。 浮遊帯域法を用いて、銅系超伝導体(Bi,Pb)2Sr2CuO6+d(Bi系)とPr1.3-xLa0.7CexCuO4+d(Pr系)の単結晶試料の作製に成功した。これらの試料の品質をx線回折、ICP分析、電気抵抗率から評価した結果、全ての試料が物性測定に用いるのに十分に高品質であることがわかった。 Bi系の単結晶を用いて電気抵抗率の磁化の測定を行った結果、超伝導が消失する極過剰ドープの低温で強磁性揺らぎが存在する可能性が高いと結論した。また、Pr系の単結晶を用いてJ-PARC・MLFミュオン施設にてミュオンスピン緩和実験を行った結果、x=0.10(Tc=27K)の低温で短距離磁気秩序と常磁性領域が共存することを見出した。このことから、電子型超伝導体では短距離磁気秩序と超伝導が共存し、これらは強い電子相関に基づいたバンド描像で理解できると結論した。さらに、昨年度作製したLa系(銅系)におけるミュオンスピン緩和と磁化測定の結果、超伝導が発現するすべてのホール濃度領域で電荷とスピンのストライプ相関が存在し、電子対の形成に聞いている可能性が高いと結論した。 昨年度までの結果と併せてまとめると、鉄系超伝導体ではスピンのゆらぎよりも軌道のゆらぎの方が電子対の形成に効いている可能性が高く、一方、銅系超伝導体ではスピンのゆらぎが電子対の形成に効いている可能性が高いと結論された。
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