研究課題/領域番号 |
23540401
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
森下 將史 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90251032)
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研究分担者 |
高木 丈夫 福井大学, 工学研究科, 教授 (00206723)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 2次元 / 量子固体 / 量子スピン / 三角格子 / カゴメ格子 / 熱容量 / 熱伝導 / バリスティック |
研究概要 |
グラファイト上吸着ヘリウム3(3He)薄膜は2原子層目までは固化可能であり、スピン1/2の2次元量子スピン系を与える。2原子層目に生ずる4/7相と呼ばれる整合固相では、三角格子上反強磁性量子スピン系が実現し、フラストレーションの強い特異な状態となる。ここで4分の1の3Heを非磁性なヘリウム4(4He)に置換するとカゴメ格子上の反強磁性量子スピン系が実現できると考えられる。カゴメ格子実現の確証を得て、三角格子との比較を行うことが本課題の1テーマである。検証として、4/7相において3Heと4Heの比率を変えての熱容量測定を行ったところ、4Heは4/7相には固化しない可能性が出てきた。4Heでは、4/7相は零点空孔子を含み、超流動固相になる可能性が指摘され、それを示唆する観測結果も存在しており、固化の有無は、その意味でも重要である。 4Heの熱容量は低温ではフォノンからの寄与が支配的で、熱容量からその状態を知ることは困難であるが、ここに少量の3Heを混入すると状態の決定が可能となる。3Heの面密度を固定し、4Heの面密度を増しながら熱容量を測定した。熱容量は、4/7相の面密度に近づくにつれ減少するが、4/7相の面密度を越えるとほぼ一定となる。一見、固化を示唆するが、熱容量はフォノンの寄与に比べ大きく、説明ができない。さらに面密度を増すと、第3原子層目の生成とともに急激に回復する。完全には消失せずに残った熱容量が、広い面密度範囲でほぼ一定になることから、この面密度範囲で3Heが3層目を生成している可能性も否定される。これらの振る舞いは、3Heと4Heは第2原子層面内で3Heの濃い濃厚相と、薄い希薄相に相分離し、濃厚相は4/7相に固化するが希薄相は固化していない、として非常に良く説明することができる。希薄相が固化しないことは、純粋な4Heが4/7相には固化しないことを強く示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2次元量子スピン系のほぼ理想的なモデル物質として、グラファイト表面上に吸着した3Heの系を熱容量・熱伝導測定を中心に研究している。震災等の影響での装置の不具合や、頻繁に発生する地震のために、バリスティックな熱伝導の観測に充分な超低温度を得ることや長時間保持することが困難な状況であるため、測定が比較的容易な非磁性置換について、主に研究を行った。カゴメ格子が実現されるかが当面の課題であるが、その中で、4Heは4/7相と呼ばれる整合固相には固化しないという予想もしない可能性が浮上し、少々脇道にそれる状態になった。しかし、カゴメ格子が実現しているかどうかの検証のためには、4Heの4/7相への固化の有無の確認は不可欠である。さらに、2次元版の超流動固体の可能性が指摘されている観測結果について知見を得る意味でも、4/7相の有無は非常に重要な意味を持つ。測定に忙殺され、新たな測定装置の製作は遅れているが、研究としては、おおむね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
グラファイト上の4He薄膜において、混入する3Heの量を減じ、3He濃厚相と希薄相への相分離が生じない状況で熱容量測定を行い、4He薄膜が4/7相には固化しないことを確認する。その上で、4/7相に相当する面密度で3Heと4Heの比率を変えて熱容量測定を行い、1/4の置換量で、カゴメ格子が実現されていることを確認する。 また、吸着サイトが2種類ある4/7相と異なり、全ての吸着サイトが同等な吸着第1原子層1/3相において、3Heの一部を4Heに置換して熱容量測定を行い、3Heと4Heは一様に混合されるのか、4Heの存在がリング交換相互作用にいかなる影響を及ぼすか等の調査を行う。 これらと並行して、冷凍機等の不具合の整備を行い、超低温度における磁場中熱容量・熱伝導の測定を再開し、バリスティック熱伝導についてさらなる知見を得る。また、磁化測定のための装置の整備や、グラファイトとしてより上質なZYX基盤を用いた装置などの整備を進め、さらなる知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は測定に忙殺され、磁化測定のための装置や、結晶子サイズの大きい吸着基板材料(ZYX)を用いた試料セルなどの製作に着手することができず、研究費の一部を次年度に繰り越した。繰り越した研究費は、これらの装置の製作・整備のための材料費・工作費にあてる。また、次年度交付の研究費は、当初の計画の通り、低温寒剤などの料金、シミュレーション用のワークステーションの他、学会旅費、論文投稿の費用として使用する。
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