研究課題/領域番号 |
23540401
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
森下 將史 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90251032)
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研究分担者 |
高木 丈夫 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00206723)
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キーワード | ヘリウム薄膜 / グラファイト / 熱容量 / 吸着構造 / domain wall / Dirac粒子系 |
研究概要 |
グラファイト上吸着ヘリウム4(4He)薄膜において固相なのか流体相なのかを含め吸着構造に関する知見が著しく不足している問題を解決するために、4He薄膜に少量のヘリウム3(3He)を混入し熱容量測定を行う手法により、その状態についての調査を行った。 吸着第1原子層において流体相から面密度を増大させていくと安定な整合相であるルート3相に固化し、3Heが局在して熱容量は減少する。しかし、さらに面密度を増大させると再び熱容量が増大した。これは4He薄膜が融解していることを示唆する意外な結果である。この領域で面密度を増大させると、熱容量は温度に比例した振る舞いから温度の自乗に比例した異常な振る舞いに移行する。また、この領域で、熱容量は3Heの量に比例する。観測された熱容量やその振る舞いは、4He薄膜が一様に融解しているとしたのでは説明できない。また、フォノン、核スピン、3Heと4Heの混合等の寄与でも全く説明できない。 問題となる面密度領域では吸着構造としてdomain wall(DW)構造が予測される。DW内では吸着ポテンシャルの凹凸の固化に対する寄与は弱く、He原子が局在していない可能性は残される。DW中のHeが流動性をもつとすると、低面密度で現れるstriped DWで3He原子は1次元系を運動し、朝永-Luttinger液体として振る舞い、温度に比例した熱容量をもつことが期待される。一方、高面密度領域で現れるhoneycomb DWでは蜂の巣格子の中を3He原子が運動することになる。これはgraphene中の伝導電子の運動の自由度に類似し、3He原子がgraphene中の伝導電子同様、線形分散をもったDirac粒子として振る舞い、温度の自乗に比例した熱容量をもつことが期待される。観測結果は、stripedからhoneycombへの移行としてよく説明でき、He薄膜でDirac粒子系が実現されている可能性を強く示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2次元量子スピン系のモデル物質であるヘリウム3薄膜の一部を非磁性なヘリウム4原子で置換した際に磁性に及ぼす影響を調べることを目的としていた。しかし、吸着第2原子層4/7相において置換量を増すと融解を示唆する結果を生じ、ヘリウム4薄膜における構造相図についての調査しなければならない状況となり、本来の目的とは異なる実験に忙殺されることになった。しかしながら、ヘリウム4薄膜には4/7相が存在しないこと、ヘリウム4薄膜吸着第1原子層ではdomain wallが流動性をもち、honeycomb domain wall構造では、ここに溶解したヘリウム3がDirac粒子として振舞っている可能性が高いこと、など重要な知見が得られている。その意味で、研究はほぼ順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
Dirac粒子系実現の確証を得るために、ヘリウム3濃度を変えての測定を行い情報収集する。特にヘリウム3濃度を極限まで減らして大きなフェルミ速度が実現できるかの調査を行う。 また、本来の目的である非磁性4He置換の影響についても、ヘリウム4薄膜において4/7相が存在しないことを受け、融解しない範囲内での測定結果を集積し、情報を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
ヘリウム4薄膜の状態についての測定の中で、domain wallのみが流動性をもつ特異な現象を発見した。このため、計画を変更して、この現象に関する知見を深める測定に注力した。これにより、動的応答測定装置の製作費等に未使用額が生じた。 未使用額については、次年度、新現象に関する知見を深める測定を継続するための低温寒剤代と、成果を国際会議で発表するための経費に充てる。
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