研究課題/領域番号 |
23540403
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴村 順三 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90108449)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ゼロギャップ / 傾斜ディラックコーン / ベリー曲率 / ラッティンジャー・コーン表現 / ディラック対生成 / 有機導体 |
研究概要 |
ゼロギャップ有機導体α-(BEDT-TTF)2I3のベリー位相を計算した(J. Phys. Soc. Jpn. 80 (2011) 104701)。ブリュアンゾーンの2つのディラック点の周りにそれぞれ生じるベリー曲率のピークは大きさが同じで符号が反対である。このハミルトニアンを伝導バンドと価電子バンドを基底とする2x2行列を用いて表し、非対角成分を構成する2つの速度場が、ディラック点の周りを回転することを示した。このようなディラック粒子は4つのバンドの他のバンド間でも存在し曲率が異なる振る舞いをすることを明らかにした。有機超伝導体α-(ET)2NH4(SCN)4についてベリー曲率を計算し、5kbar以上の1軸高圧下でゼロギャップ状態が出現することを示した(J. Phys. Soc. Jpn. 80 (2011)084712)。このバンドでもディラック粒子は存在するが、常圧ではフェルミ面下にあるため、金属であり曲率もは異方的であるが、高圧ではディラック点がフェルミ面に一致しゼロギャップ状態が出現する。有機導体α-(BEDT-TTF)2I3は常圧では電荷の絶縁秩序状態であるが、圧力増加により質量有限のディラック電子対がブリュアンゾーンのM点付近に出現することを示した(Phys. Rev. B 84 (2011)075450)。これについて、低エネルギー励起を記述する2x2の有効ハミルトニアンを用いて表し、M点での鞍点を記述する1つのパラメータの圧力変化として明らかにした。このようなディラック電子の対生成の際のベリー位相の振る舞いを調べた。さらにこのような物質に特徴的な傾斜したディラックコーンにおける動的誘電 応答を長距離クーロン相互作用のRPAにより計算し、等方的なディラックコーンには存在しない新たなプラズモン等を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機導体のディラック点は波数の対称点でなく偶然の位置に存在するので、エネルギーバンドのみでは十分には明確にできない。そこで本研究では、量子力学の波動関数の性質に起因するベリー位相に着目し、各波数でのベリー曲率を計算し、ディラック粒子特有の振舞いを調べ、さらにこのような粒子の存在が示唆されている他の有機導体においても、実験から得られる飛び移りエネルギーを用いて調べ、有機導体におけるディラック粒子に共通な性質とその起源を探索することを目的とした。α-(BEDT-TTF)2I3における高圧下で出現するゼロギャップ状態において、ベリー曲率を計算しそのピークの位置からディラック点の存在を確認した。このベリー曲率という有力な手法を用いて、低圧での絶縁状態でも、圧力増加により質量を持つディラック粒子が出現することを示した。さらに他の有機導体であるα-(ET)2NH4(SCN)4についても、この手法を用いて、圧力下でディラック粒子が出現することを予測した。これにより当初の目的であるゼロギャップ有機導体にベリー位相を適用することはほぼ成功したが、後半の目的である起源についてはまだ十分には明らかでない。 このようなディラック点がなぜ出現するのかの原因を調べることは、現在研究中である。この研究については、フランス、パリ南大学の固体物理学研究所へ出張し、グラフェンにおけるディラック粒子の専門家と、ブリュルアンゾーンの対称点における波動関数の反転対称性の性質との因果関係についての共同研究を開始した。このアイデアを用いて、今後2年間でデラック粒子と、分子間の飛び移り積分の関係を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、23年度から継続して研究している研究を発展させ、ディラック粒子出現の機構解明に重点を置く。ディラック点出現の必要条件との関連が示唆されている分子間を結ぶ7種類の飛び移り積分の空間的パターンについて、いくつかの有機導体においてこれを分類し、実際のバンドの結果と比較する。単位胞に4分子存在するこの系のハミルトニアンは、エルミート行列から実行列へと変換できること、反転対称性により分類される波動関数の各成分におけるゼロラインの存在及びディラック点での波動関数の特異性を利用してディラック点を求める条件を明らかにし、これを用いてくつかのパラメータを決める連立方程式を導出する。これを数値計算することにより、ハミルトニアンの行列を直接対角化してバンドを計算することなくディラック点を求める。これにより、なぜゼロギャップが出現するのかの機構を明らかにする。この数値計算を新規に購入するワークステーションを併用して行う。ディラック粒子を、これまで1軸圧で主に研究してきたが、実験的には静水圧でも観測されており、かなりの高圧までディラック粒子が存在することが報告されている。この場合分子間の飛び移り積分の圧力依存性が一軸の場合とは異なるので、電子相関の他にアニオンポテンシャルの効果が重要でると予測される。これらの協同効果についても明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、補助金の23年度未使用分(\585,220)については、今年度購入するワークステーションの一部補填、及びパソコン購入等に充てる。今年度分の主な使用は、成果発表、情報収集のため、論文投稿料、旅費等に充てる。
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