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2012 年度 実施状況報告書

有機導体におけるディラック粒子の起源とベリー位相の理論的研究

研究課題

研究課題/領域番号 23540403
研究機関名古屋大学

研究代表者

鈴村 順三  名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (90108449)

キーワードゼロギャップ / 有機導体 / ベリー曲率 / 傾斜ディラックコーン / ディラック粒子 / ディラック電子対 / 静水圧 / 空間反転対称性
研究概要

ゼロギャップ有機導体α-(BEDT-TTF)2I3の傾斜ディラックコーンを持つ特徴を明らかにするためこれまで行ってきた研究をレビュー論文として発表した(Crys.2012 2 (2012)266)。動的分極関数は波数の角度依存性を示し、振動数依存性にカスプが存在する。さらに特徴的なこととして新しいプラズマ振動が出現する。ベリー曲率はディラック点の周りにピークを持つことからディラック点検証に有益である。これまで第一バンドと第二バンドの間に存在するディラックが40kbar程度の圧力で消滅することが知られていたが、今回、第二バンドと第三バンドの間に存在するディラック点が4kbar程度の圧力で出現する様子を新しく見つけ、より現実的な圧力での振舞いを提案した。別のアニオンや、電荷秩序下でのディラック点についても言及した。強磁場下での2つのバレー間のディラックコーンの対形成による非磁性状態の理論を構築し、この効果と強磁場下の電気電導度の磁場依存性の話題との関連を言及した。このようなディラック点出現機構についての理論的研究を進めた。圧力増加ととともにブリュアンゾーンをどのように動き回るかを求める方程式を導出し、これはα型の一般的な有機導体のディラック点検索に有用になると期待される(JPSJ 82 (2013) 023708)。これに関連して従来予測されていた2つの等価な分子A、A'の空間反転対称がディラック点存在には必要であるという考えは必ずしも正しくなく、もっと広範囲で適用される条件を見出した。さらにディラック点存在条件を、ブリュアンゾーンの4つの時間反転対称点の固有関数の偶奇性の性質のみで決定する手法を、グラフェンの理論を基に導出した(JPSJ 82 (2013)033703)。実際これが正当化されることを一軸圧の場合の例で具体的に示した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

有機導体で発見されたディラック点はブリュアンゾーンの波数の偶然の位置に存在するので、単位胞に2分子存在するグラフェンのような解析的手法では理解できない。これまでは4x4の行列で表現されたハミルトニアンを直接数値的に対角化するほか手段がなかった。これを解決するため、ベリー曲率の研究を行った結果、波動関数のトポロジカルな性質が重要な働きをすることが明らかになってきた。これは波動関数がディラック点で特異点を持つからである。そこでブリュアンゾーンで波動関数の一成分がゼロになる(ノード)場所を調べたところディラック点と時間反転対称点を結ぶ線として存在することを見出した(JPSJに2012年9月投稿し、2013年5月掲載予定)。これはNMRの局所的磁化率の温度変化を説明するのに決定的な証拠を与えた。さらに静水圧下で出現するディラック点については、アニオンポテンシャルの効果が重要であることを指摘した(JPSJ2013年4月号掲載)。これは静水圧下では面間の距離も短くなるためと考えられ、第一原理計算による主張とも矛盾しない。このように、本年度は前年度と比較して出現機構解明に向けて一歩前進した。このような成果においては、フランス、パリ南大学の固体物理学研究所との共同研究が重要な貢献をした。研究者が互いの研究機関を訪問しあい、合計約1か月に渡る研究打ち合わせ行ったことが大変効果を上げた。これまで偶然縮退として未知であったこのディラック点の影響がブリュアンゾーン全体の波動関数に広がっていること、さらにゼロギャップ状態が安定化するにはヨウ素のアニオンポテンシャルが重要な役割を担っていることを明らかにした。このように予想以上に大きな展開があった。

今後の研究の推進方策

本研究課題の最終年度として以下の計画を立てている。これまで、ディラック粒子出現の機構の解明を行い、ディラック点出現の必要条件を調べてきた。しかし、ノードとベリー位相との関連はいまだ謎である。また、実験で得られた7個の飛び移り積分を用いて得られたディラック点について、この様な組がディラック点をもつ一般的なバンドとしてどのような位置にあるのか明らかでない。これについて予備的な研究として分子間を結ぶ7種類の飛び移り積分の空間的パターンについて、有機導体における分類を行ってきた。実現しているバンドのパターンは結晶合成上もっともらしいと思われるが、ディラック点出現にさらに有力なパターンを明らかにし、物質合成の指針を与えたい。さらにノードの解析的性質を用いて本研究課題に関連するベリー位相の不偏性を明らかにする。これに基づき有機導体における、より安定なディラック粒子を探索する。2013年4月、実験家と共同で招待論文をJPSJに投稿した。これを基に日本発の有機導体中のディラック電子を国際的に宣伝する。その一つの手段として2013年7月モントリオールで開催されるISCOM2013でplenary talkを行い、これまでの研究を概観し有機導体の特徴を紹介する。

次年度の研究費の使用計画

補助金の24年度未使用分については、次年度の補助と合わせてモントリオールで開催される国際会議ISCOM2013の旅費に充てる。そのほか学会発表、研究打ち合わせのための旅費に使用する。最終年度のとりまとめとして、論文投稿料等にも充てる。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2013 2012

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Dirac Electron in Organic Conductor alpha-(BEDT-TTF)_2I_3 with Inversion Symmetry2013

    • 著者名/発表者名
      F. Piechon and Y. Suzumura
    • 雑誌名

      J. Phys. Soc. Jpn.

      巻: 82 ページ: 033703 (1-4)

    • DOI

      doi.org/10.7566/JPSJ.82.033703

  • [雑誌論文] Mechanism of Dirac Point in alpha Type Organic Conductor2013

    • 著者名/発表者名
      Y. Suzumura, T. Morinari and F. Piechon
    • 雑誌名

      J. Phys. Soc. Jpn.

      巻: 82 ページ: 023708(1-4)

    • DOI

      doi.org/10.7566/JPSJ.82.023708

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Theory of Dirac Electrons in Organic Conductors2012

    • 著者名/発表者名
      Y. Suzumura, A. Kobayashi
    • 雑誌名

      Crystals

      巻: Vol. 2012, No. 2 ページ: 266-283

    • DOI

      10.3390/cryst2020266

    • 査読あり
  • [学会発表] α型有機導体におけるディラック点2013

    • 著者名/発表者名
      鈴村順三
    • 学会等名
      日本物理学会
    • 発表場所
      広島大学
    • 年月日
      2013-03-25
  • [学会発表] 分子性導体α-(BEDT-TTF)2I3のディラック電子状態における代数的構造2013

    • 著者名/発表者名
      森成隆夫
    • 学会等名
      日本物理学会
    • 発表場所
      広島大学
    • 年月日
      2013-03-25

URL: 

公開日: 2014-07-24  

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