吸着ポテンシャルを弱めたナノサイズのトンネル中では低温で吸着3Heの熱ドブロイ波長が孔径を超え純粋な1次元流体が実現されることが期待される。この流体は電子系とは異なる朝永ラッティンジャー液体の新たなモデル系となりうる。またトンネル中吸着4Heで1次元超流動が観測され、原子の吸着状態の微視的知見が重要となった。これらの量子状態の検証のため核磁気共鳴測定系を新たに構築し、孔径2.4nmの1次元トンネル中の吸着3Heについて研究を行った。 トンネル内3He膜の緩和時間の結果から、トンネル壁面の吸着第1層3Heにおいても量子固体3Heと同程度の原子運動が存在し、低温で量子トンネリングに移行することがわかった。また1層以上の吸着3Heでは層間に緩和時間よりも速い粒子交換が存在することが明らかになった。これらは不活性な第1層とその上の流体層という従来の単純化された吸着Heの描像に修正を要する結果となった。またトンネル内吸着膜に特有の緩和時間の温度変化も観測された。これらの結果を国際学会等で発表し、2編の論文にまとめた。 最終年度は4Heを1.4層被覆し吸着ポテンシャルを弱めたトンネル中で1原子層の1%以下の非常に希薄な吸着3HeのNMR測定を行った。0.5K付近で温度に反比例していた帯磁率が0.2から0.3K程度以下で一定になる振舞が観測された。これは高温でキュリー則を示す非縮退液体が低温でフェルミ縮退を起こしたと解釈される。縮退温度は最低吸着量まで吸着量に依存し、トンネル内で3Heは一様な流体状態にあることが確認された。縮退温度の吸着量依存性や帯磁率から得られる状態密度は、0.25Kに周方向運動励起をもつ1次元系のものと定量的に合致し、1層の0.7%以下の希薄な吸着3Heは断面方向の運動自由度を持たない状態で縮退を起こし低温で純1次元量子流体となることを強く示唆する結果が得られた。
|