研究課題/領域番号 |
23540405
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
佐野 和博 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40201537)
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研究分担者 |
中村 浩次 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70281847)
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キーワード | 第一原理計算 / ダイヤモンド表面 / 超伝導 / シリコン表面 |
研究概要 |
昨年度に引き続きダイヤモンド結晶やシリコン結晶に外部電場を印加することにより誘起されるキャリアに関する理論的研究を、第一原理計算を用いて検討した。各結晶表面としては(110)、(111)、(100)方向の3つの表面構造を採用し、それらに外部電場を導入し電子構造を第一原理計算により求める。なおここでは結晶表面を安定化するために水素終端したモデルを用いる。炭素原子やシリコン原子が結晶表面に、そのまま剥き出しになっているモデルではダイマーボンドやダングリングボンドなどが形成され化学的に不安定であり、実際の物質でも表面に水素が吸着することにより表面が安定化するので、このモデルは現実的にも妥当なものと考えられる。 計算の結果、ダイヤモンド結晶及びシリコン結晶とも電場印加により表面層にホールが誘起され、外部電場の大きさに応じてフェルミレベルでの電子状態密度(キャリア密度)が増加する傾向を確認した。ダイヤモンド結晶の場合、電場の強さが1V/Å程度あれば期待されるキャリア密度は1%を超えることがわかったが、この値をホウ素をドープしたバルクのダイヤモンド超伝導体の実験結果と照らし合わせてみると、バルク系で観測されている超伝導発現温度(絶対温度で約2K)程度に対応するキャリヤ密度が得られるので、電場誘起超伝導が十分実験的に測定可能となりうることが見出された。 次にシリコン結晶でのキャリア密度を求めてみると、同一の電場下ではダイヤモンドの場合よりも低い結果が得られた。もともとホウ素をドープしたバルク系の超伝導は、ダイヤモンドよりも起こりにくい事を考え合わせれば、シリコン結晶での電場誘起超伝導は難しいものと考えられる結果が得られた。これらの結果は、いずれも論文として出版ずみである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイヤモンド表面上で期待される電場誘起超伝導のメカニズムを理解する上で必要不可欠な表面の電子状態を(110)、(111)及び(100)表面の代表的な3つの表面系に対し第一原理計算により検討を行い表面に誘起されるキャリア密度を具体的に求めることができた。またバルクのダイヤモンド超伝導体と比較検討することにより、ダイヤモンド表面で期待される超伝導発現温度も推定することが出来た。さらにシリコン結晶に対する計算も同様に行いこれらの成果は学術誌に論文としてすでに出版されているので、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの計算結果を踏まえ、本研究で提案した電場誘起超伝導の発現メカニズムの検討を進めていく。具体的には、ダイヤモンド表面における格子振動(フォノン)と電子の間の結合定数を第一原理計算により求め、その結果に基づき定量的にダイヤモンド表面で期待される超伝導発現温度を理論的に求める。また、バルクのダイヤモンド超伝導体との比較検討なども行い、ダイヤモンド表面などにおける電場誘起超伝導の特徴などを明らかにしていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
成果発表のための旅費を節約したところ、最初の見込みより少なくて済んだため。 成果発表を活発に行うための旅費等で使用する。また一部古くなった計算機の更新も検討する。
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