本研究計画の最終年度では、自作熱容量計を用いた研究をさらに進めた。昨年度報告した、ルテニウム酸化物超伝導体Sr2RuO4において磁場が結晶のab面に平行な場合に超伝導相転移が一次相転移になるという顕著な現象の解明を進めた。磁気熱量効果に加えて、比熱でも初めて明確な一次相転移性を観測することに成功した。また、一次相転移の現れ方は試料の質に非常に敏感であることも明らかにした。また、通常の二次相転移が起こる状況下では、超伝導の性質(例えば比熱や上部臨界磁場)が面内の磁場方向には依存しないのに対し、一次相転移が起こる条件下では、超伝導の性質に顕著な面内磁場異方性が現れることが分かった。このことは一次相転移の起源を決める上で非常に重要な情報であり、現在論文を投稿中である。また、H26年度に関連の招待講演2件が予定されている。他に、比熱の面内磁場方向依存性にも、低温では特異な依存性が現れることを見出した。 また、有機物擬一次元超伝導体(TMTSF)2ClO4について、比熱の温度依存性の測定を進めた。この物質は、24ケルビン付近の冷却スピードによって物質内の有効的な不純物濃度を制御できるという特異な性質を持つ。このことを利用し、比熱の温度依存性が不純物濃度による変化を一つの試料を用いて系統的に研究した。また、比熱の磁場方向依存性の詳細な解析について論文1篇を出版した。 研究期間全体を通じて、圧力下の測定に関しては進展が少なかったものの、常圧下での比熱および磁気熱量効果の測定で顕著な成果を上げた。特に、Sr2RuO4の超伝導一次相転移は、超伝導と磁場の未知の相互作用を明らかにした点で非常に意義がある。また、(TMTSF)2ClO4の研究でも、初めて超伝導ギャップ構造を比熱の磁場方向依存性から明らかにすることができ、この手法が擬一次元系にも適用できることを初めて明らかにした。
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