研究課題
本研究では、近年強相関電子物質で外部圧力や化学組成などを変化させた際に、低温で磁気秩序が消失する「磁気量子臨界点(QCP)」付近で観測される特異物性に着目する。すなわち申請者らがSPring-8の高輝度な赤外放射光を用いて独自に推進してきた「高圧下の赤外分光による物質電子構造の測定手法」を、QCPを示すモデル物質に用いることにより、圧力によってその物性をクリーンに制御しつつ、QCPでの異常物性の起源となるフェルミ準位付近の電子構造を明らかにすることを目的とした。本年度(H24)では、近年発見された物質であり、圧力印加によって磁気秩序を起こす事が報告されている物質YbNi3Ga9を主に研究対象とした。この物質は常圧では非磁性の価数揺動物質であるが、圧力印加と共に電気抵抗の温度依存性が大きく変化し、約9 GPaで磁気秩序を示す。測定は常圧から10 GPaまでの圧力、室温から6 Kまでの温度範囲、そして20 meVから1.1 eVの光子エネルギー範囲で、その反射率スペクトルの測定を行った。測定は大型放射光施設SPring-8において、シンクロトロン放射光を赤外光源として行った。その結果、圧力増加と共に顕著なスペクトルの変化を見いだした。すなわち、常圧で観測されていた、価数揺動物質でよく観測される中赤外領域での吸収ピークの成長が、圧力印加と共に抑制されていった。これは高圧下でf電子の局在性が増していき、一見伝導電子との混成が弱くなっていくように振る舞っている事を示している。今後さらに詳しく電子状態の情報を得るために、Kramers-Kronig解析によって光学伝導度を導出して、その解析を進めていく予定である。
3: やや遅れている
本研究では、大型放射光施設SPring-8の赤外ビームラインを使って高圧赤外分光実験を推進すると共に、神戸大学の実験室においても、通常赤外光源を用いた高圧実験装置を立ち上げることを一つの目標としている。前者に関しては順調に実験を進めているが、後者に関しては遅れている。その理由は、実験に必要なクライオスタットの設計を業者に依頼した所、非常に時間がかかりクライオスタットの納品が今年度末までずれ込んでしまったためである。
来年度が最終年度である。上で述べたクライオスタットを使った赤外顕微分光装置を速やかに立ち上げ、神戸大学の実験室での高圧赤外分光を可能にしたい。そしてSPring-8での実験で得たデータと合わせて解析して行く。測定する物質としてはCe2NiGa12, YbCu2Ge2などの重い電子系物質での測定を計画している。また初年度、本年度で測定したCeCoIn5, CeRhIn5, そしてYbNi3Ga9などのデータ解析も進め、圧力で変化するf電子の混成状態のミクロな特質を明らかにしたい。
「達成度」の理由の項で述べたように、クライオスタットの納品遅れに伴い、神戸大学の実験室での赤外顕微分光装置の立ち上げが遅れている。次年度の研究費は、この装置の立ち上げに必要な消耗品に主に使用する予定である。
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J. Phys. Soc. Jpn
巻: 82 ページ: 021004, 28
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