研究課題/領域番号 |
23540410
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
村岡 祐治 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (10323635)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 光キャリア注入 / VO2 / 薄膜 / 放射光 |
研究概要 |
酸化物絶縁体間の界面で起こる新規な光キャリア注入現象について、研究を行った。我々はTiO2基板上に作製したVO2薄膜に放射光を照射すると、その絶縁体相が金属化することを見出した。H23年度の研究では、VO2薄膜へ放射光照射した際に生じる変化を光電子分光測定により調べた。VO2薄膜はパルスレーザー堆積法によりTiO2(101)基板上に作製した。作製した薄膜は原子間力顕微鏡で表面が平滑であること、X線回折測定よりエピタキシャル成長していることを確認した。電気抵抗測定より評価した金属絶縁体転移温度は310 Kであった。放射光照射と光電子分光測定は広島大学放射光科学研究センターBL5で行った。VO2絶縁体相への放射光照射効果を調べたところ、光照射時間とともにフェルミ準位上の状態が増加する様子を観測した。この変化は光照射をやめても元に戻らず、不可逆な変化であった。価電子帯スペクトルの変化を解析することにより、光照射によりV3d電子数が増加していることがわかった。光照射によりV元素に電子が注入されていることを示している。このような変化は金属相でも同様に観測された。放射光照射効果は絶縁体相や金属相金属相によらずおこる現象であることがわかった。光照射後の電気抵抗測定より、照射後は転移温度が低下していることがわかった。光電子分光の結果とよい対応を示した。抵抗測定は比較的バルクの情報を反映することを考えると、光照射による変化は、比較的膜全体に及んでいると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射光照射により一体何が生じているのかを、現象論として明らかにすることがH23年度の主目的であった。これに対して、光照射による変化が不可逆であること、光によりV3dに電子が注入されていること、絶縁体相や金属相によらず変化が生じること、変化は比較的膜全体に及んでいること、など、光照射現象の概要を明らかにする情報が得られた。変化の機構解明を思慮することにつながる成果である。
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今後の研究の推進方策 |
H23年度の研究成果をもとに、VO2薄膜の放射光照射効果の機構解明を目指す。一つの可能性として、光照射時に薄膜からの酸素脱離が考えられる。H24年度はこの可能性の検証に力を入れる。そのために、光照射効果に伴うVO2薄膜の酸素の電子状態の変化を光電子分光により調べる。特に酸素の内殻準位の測定に力を入れる。一方、光誘起金属相の同定も重要な課題である。温度誘起の金属相と同じなのか違うのか、検証したい。これについては、光照射前後の試料について、XRD測定を行うことで明らかにできる。また、キャリアがどの程度注入されているのか、定量的な評価も輸送特性を調べることで明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度の研究費は、主に実験に関する消耗品、出張旅費に充てる。薄膜作製に必要なレーザーのガスや基板、また、放射光光電子分光実験をするSPring-8, HiSOR, PF施設への出張旅費に使用することを予定している。また、物理学会や応用物理学会、国際学会への参加経費としても使用する予定である。
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