研究課題/領域番号 |
23540410
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
村岡 祐治 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (10323635)
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キーワード | VO2薄膜 / 放射光照射 / 絶縁体金属転移 / 金属酸化物 |
研究概要 |
H24年度はVO2薄膜における光誘起絶縁体金属転移の機構解明、ハーフメタルCrO2薄膜作製法の確立、および新規ルチル型TaO2薄膜の作製に取り組んだ。以下にその研究成果を記す。 1、 VO2薄膜における放射光誘起 絶縁体-金属転移について研究を行った。光照射時間に伴う価電子帯電子状態の変化を光電子分光により調べた。その結果、光照射時間とともにバナジウムの状態密度は増加する一方で、酸素の状態密度は減少する様子が観測された。この結果に基づき、光照射による転移機構として、光照射により膜から酸素が脱離し、その際に膜に残された電子がバナジウムイオンに注入されることで金属化が生じるというモデルを提案した。 2、閉鎖系CVD法を用いて、ハーフメタルCrO2薄膜の作製に取り組んだ。その結果、原料であるCr8O21の湿度と加熱温度により、作製した膜の状態が変化することがわかった。これより原料の湿度と加熱温度が、閉鎖系CVD法を用いてCrO2薄膜を作製する際の重要なパラメータであることがわかった。これらを調整することにより、CrO2薄膜作製の再現性が向上した。 3、新規ルチル型金属酸化物の作製に取り組んだ。対象としたのはTaO2である。この物質は存在こそ知られているものの、特性は未解明である。我々はパルスレーザー堆積(PLD)法により、強還元雰囲気下の下でTaO2薄膜の作製を試みた。その結果、XRD測定よりTa2O5とあわせて、(100)配向したルチル型TaO2と思われる相を観測した。TaO2薄膜という新物質の作製に成功するとともに、PLD法が強還元の必要なTaO2の作製に有効であることがわかった。単一相化や物性評価が今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた実験をほぼ全て実行し、目的に応じた成果が得られている。 VO2薄膜の放射光誘起 絶縁体金属転移の研究では、金属化の起源を解明することがH24年度の主目的であった。計画していた放射光光電子分光実験により、光照射時間に伴う電子状態の変化を詳細に調べることができ、その結果から、薄膜からの酸素脱離による金属化のモデル提案に至った。目的の達成に向けて有益な情報が得られている。 一方、ハーフメタルCrO2薄膜の作製法確立を目指した研究では、作製に重要なパラメータを見出し、その値の調整にも成功した。作製の再現性が向上しており、作製法の確立に大きく近づく結果となった。 新物質探索に向けた取り組みについても、成果が得られている。PLD法によりTaO2薄膜の作製に成功した。成功の要因は、Ta4+の安定化のために水素ガスを含む雰囲気の中で成膜したことである。水素の導入により強還元雰囲気の環境が実現できている。本研究結果は、TaO2薄膜の作製に成功したことはもちろん、PLD法と水素雰囲気の組み合わせによる成膜方法が、強還元下でのみ安定化される物質や、低酸化数物質の作製・開発に有効であることを示している点でも意義深い。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度の研究を継続発展させ、物性制御可能な光キャリア注入法の確立につなげる。以下に各物質についての推進方策を記す。 1、VO2薄膜の放射光照射絶縁体-金属転移:転移機構として提案したモデル、「薄膜からの酸素脱離による金属化」の検証を行う。光照射に伴う薄膜からの酸素脱離を確認するために、Qマス測定を行い、モデルの妥当性を確かめる。光誘起金属相の同定も行う。温度誘起の金属相と同じであるのか、それとも光誘起固有の相なのか調べる。XRDあるいはLEEDを用いて、光照射前後でのバルクおよび表面の構造を調べることで光誘起金属相の同定を行う。金属相の同定は光誘起現象の理解はもちろん、VO2の金属絶縁体転移の機構を理解する上でも有益な情報をもたらす。そのほかにも、光照射後の転移温度やキャリア注入量を輸送特性の評価により明らかにする。 2、CrO2薄膜への光キャリア注入: CrO2薄膜をTiO2:Nb基板上に作製し、その界面でpn接合を作製する。接合特性をIVおよびCV測定より評価し、情報を作製に還元することで、高品質な界面、高い接合特性の実現を目指す。この接合に紫外光を照射して、光キャリア注入の効果を調べる。効果は光起電力や光電流測定により評価する。CrO2は強磁性体である。接合特性や光キャリア注入効果の磁場応答を調べてみることも興味深い。 3、TaO2薄膜の単一相化と物性評価: 成膜条件の調節により、TaO2薄膜の単一相化に取り組む。挿入する水素分圧、成膜時の基板温度、レーザーの出力などを調整することでTa2O5のないTaO2単一相膜を作製する。得られた膜について構造と物性を評価する。XRD、電気抵抗および光電子分光による評価を予定している。TaO2の物性を明らかにすることはもちろん、金属と予想しているバンド計算との比較から、スピン軌道相互作用の物性への影響を明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は主に、実験に関する消耗品と出張旅費に充てる。薄膜作製に必要なレーザーのガスや基板、また、放射光光電子分光実験をするSPring-8, HiSOR, PF施設への出張旅費に使用することを予定している。また、物理学会や応用物理学会、国際学会への参加経費としても使用する予定である。
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