研究課題/領域番号 |
23540411
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
谷口 雅樹 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10126120)
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研究分担者 |
佐藤 仁 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (90243550)
有田 将司 広島大学, 技術センター, 技術員 (20379910)
平岡 耕一 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (00199043)
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キーワード | 価数相転移 / 価数揺動 / 希土類化合物 / 光電子分光 |
研究概要 |
希土類元素は通常3価だが、Ceは4価、Sm, Eu, Tm, Ybは2価のものが存在する。物質中では両者はしばしば混在し、温度や圧力によって価数相転移を示す物質もある。中でもYbInCu4は構造不変のままTV~40 KでYb価数z=3 (高温相) から、z=2.9 (低温相) に1次相転移する。系を特徴付ける近藤温度は高温相でTK~25 K、低温相でTK~400 Kであり、Yb 4f状態は高温側で局在的、低温側で遍歴的である。本研究では、Inを他の元素で置換したYbXCu4単結晶を育成し、光電子分光実験により電子状態を明らかにし、それらの比較からYbInCu4の示す価数相転移の機構を構築することを目的とする。 これまで、Inを周期表の両隣の元素であるCd、Snで置換したYbCdCu4、YbSnCu4の単結晶育成に成功し、硬X線(hn=6 keV)光電子分光実験から、YbInCu4でCuサイト上の伝導電子数が最も多く、Cuサイトから他のサイト(ここではYb)に電荷が移動しやすくなっていることが価数相転移と関連していることが分かった。一方、最近合成された新規近藤格子系YbNi3X9 (X=Al, Ga)は、X=AlはTK~3 K、X=GaはTK~600 Kであり、前者がYbInCu4の高温相、後者が低温相に対応する。この系について同様な実験を実施し、光電子スペクトルに類似の変化を見いだした。比較により、伝導電子がYbサイトに移動することで価数相転移が起こり、伝導電子状態密度(DOS)中のフェルミ準位(EF)が移動し、EF上のDOSが増えたために低温相で近藤温度が上昇すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、YbCdCu4、YbSnCu4の単結晶に成功し、硬X線(hn=6 keV)および極紫外(hn=10 eV)光電子分光実験を実施した。また新規近藤格子系YbNi3X9(X=Al,Ga)に対しても同様な測定を行い、光電子スペクトルが、YbInCu4の価数相転移と類似の振る舞いを示す事から、本研究の目的に適した系であることを新たに見いだした。YbXCu4の実験結果と比較することで、YbInCu4の価数相転移機構に関して研究実績の概要で述べたモデルを構築した。また、YbNi3Ga9に対して角度分解光電子実験を実施し、Yb 4f-伝導電子混成状態の観測にも成功している。さらにInを、周期律表でInの左上にあるZnと右隣にあるSnで置換したYbZn0.5Sn0.5Cu4単結晶(伝導電子数がYbInCu4と同じになる)に対して測定を行ったところ、急激な価数相転移は起こさないが、100 K以下でYb価数が急激に減少することも見いだした。以上からおおむね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、YbInCu4単結晶に対する角度分解光電子分光を中心に研究をすすめる。これまでは角度積分モードで光電子分光実験を実施してきた。角度分解測定を行うことで、価数相転移前後におけるバンド構造の変化(特にフェルミ準位近傍)や、低温相におけるYb 4f-伝導電子混成状態を詳細に明らかにし、YbInCu4の価数相転移機構についてさらに考察を行う。また新規近藤格子系YbNi3X9(X=Al,Ga)がYbInCu4の価数相転移機構の解明に適した系であると考えられるため、引き続きこの系に対しても角度分解光電子分光実験を行い、YbInCu4との実験結果の比較から、価数相転移機構に関する知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
単結晶育成のために、高純度金属および透明石英管などの消耗品が必要である。 放射光を用いた実験では、真空部品などの消耗品、試料をマウントする試料ホルダー、接着剤などが必要になってくる。硬X線光電子分光実験はSPring-8で行うため、実験旅費が必要になる。これまで得られている成果を、2013年7月に合肥(中国)で行われるVUVX38(38th International conference on Vacuum Ultraviolet and X-ray Physics)で報告する。また、日本放射光学会および日本物理学会での発表を予定している。
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