研究課題/領域番号 |
23540412
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
佐藤 仁 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (90243550)
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研究分担者 |
沢田 正博 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (00335697)
田中 新 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (70253052)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 金属絶縁体転移 / 擬一次元系 / バナジウム系 / 光電子分光 / 線二色性分光 / 共鳴散乱 |
研究概要 |
BaVS3は、V4+(3d1)イオンがc軸に沿って鎖状に並んでいる擬一次元物質であり、室温以下で3段階の相転移を示す。室温から温度を下げると、TS=240 KでわずかにVイオン鎖がジグザグになり、六方晶から正方晶に構造相転移する。さらにTMI=70 Kで、2次の金属絶縁体転移(MIT)を示す(高温側:金属、低温側:絶縁体)。このとき磁性はCurie-Weiss的な振る舞いから磁気秩序のない状態に転移する。MITの起源については現在のところ定説はないが、電荷密度波不安定性、あるいは、Mott転移にもとづくモデルが提出されている。本研究の目的は、高分解能光電子分光、V 2p-3d軟X線吸収線二色性分光、V 2p-3d共鳴散乱により、BaVS3のV 3d状態について実験的知見を得、特にTMI=70KでのMITのシナリオを構築することである。得られた主な成果は、広島大学放射光科学研究センター(HiSOR)BL1で得られた偏光依存角度分解光電子分光(ARPES)の結果である。V 3d軌道はSイオンの作る結晶場によりa1g軌道、egp軌道、egs軌道の3つに分裂する。各Vイオンあたり1個の3d電子は、a1g軌道、egp軌道の両方に分布するといわれている。ARPESの結果でも両方の対称性をもつバンドがはっきりと観測された。さらに放射光の偏光依存性を利用することにより、a1g軌道、egp軌道を分離して観測することに成功した。その結果a1g軌道はTMIより上の150-120 Kでギャップを形成し、一方egp軌道は丁度TMIでギャップを形成することを明らかにした。また光学伝導度の理論計算を行い、絶縁体相でのV 3d軌道状態についての理論的知見を得た。V鎖方向にegp-egp-egp-a1gもしくはegp-egp-agp-a1gで占有されるのがエネルギー的に安定であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり偏光依存角度分解光電子分光を実施し、研究実績の概要に述べたような貴重な成果を得た。この成果は現在論文にまとめているところである。また予定していたV 2p-3d軟X線吸収線二色性分光も既に実施しており、理論解析を実施中である。また、V 2p-3d吸収領域下での軟X線散乱実験について検討した。他にも硬X線(hn=6 keV)光電子分光実験のdataも得られており、現在解析をすすめている。以上からおおむね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
絶縁体相において、TX=30 K以下で観測されるq=(0.226,0.226,0.015)の磁気散乱ピークについて、V 2p-3d吸収領域下での軟X線共鳴散乱実験を、KEK-PFで実施する予定である。多重項計算を用いた理論解析を行い、V 2p-3d軟X線吸収線二色性スペクトルともあわせて、絶縁体相におけるV 3d軌道状態を明らかにする。また直接金属絶縁体転移にアクセスできるS K吸収領域での散乱実験について検討を行う。研究実績の概要に述べた光電子分光実験は真空紫外領域のhn=57 eVで行った。このエネルギー領域は、光電子スペクトルが最も表面敏感になる領域であり、結果がバルク特有のものであるかどうか確認するために、バルク敏感になる硬X線(hn=6 KeV)、極紫外域(hn=7 eV)、および中間の軟X線領域(hn=800 eV)での測定が重要だと考えている。真空紫外領域でのフェルミ準位近傍の光電子スペクトルでは、TMIをはさんでほぼ連続的な温度変化しか観測されなかった。硬X線光電子分光は既に実験が終了しているが、TMIで不連続な変化が観測されている。今後極紫外域、軟X線領域での測定を検討している。極紫外域での測定はHiSOR、軟X線領域での測定はSPring-8で行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
放射光を用いた実験では、真空部品などの消耗品、試料をマウントする試料ホルダー、接着剤などが測定ごとに必要になってくる。また特に共鳴散乱実験は我が国ではスタートしたばかりなので、測定前に専門家との詳細な打ち合わせが必要である。KEK-PFおよびSPring-8での実験のために実験旅費が必要である。BaVS3単結晶育成のために、高純度金属および透明石英管などの消耗品が必要になる。これまで得られている成果を、2012年9月フランスで行われるICESS12(12th International Conference on Electron Spectroscopy and Structure)で報告する。また、日本放射光学会および日本物理学会での報告を予定している。
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