研究課題
EuRh2Si2の圧力誘起価数転移を発見を受けて、この振舞を圧力下において磁化、電気抵抗、熱膨張の測定からより詳細に調べた。その結果、価数転移温度は圧力と共に直線的に増加する振舞が明らかになり、EuRh2Si2の温度-圧力相図を完成させることができた。この相図は今後この系を詳しく調べていく上で重要な礎になる。また、EuRh2Si2の反強磁性消失直後の圧力下で希釈冷凍機を用いて0.25Kまで電気抵抗を測定したが超伝導の兆候は見られなかった。本系では反強磁性消失が一次転移的(不連続的)に起こるため、量子揺らぎが増大する領域を飛び越えてしまい、超伝導や非フェルミ液体的振舞が観測されなかったと考えられる。同様な振舞を示すEuNi2Ge2で極低温下の電気抵抗を調べているが、今のところ超伝導は観測されていない。このような特徴はEu系やYb系の価数転移物質とも共通の特徴と考えられる。EuRh2Si2の研究については論文としてまとめることができた。一方、価数転移と価数秩序転移が同時にかつ二段階で起こるEuPtP系については、改良ブリッジマンアンビルセルを導入することで、新しい価数秩序相の誘起を試みているが、現時点ではセルの導入できたところである。この系での大きな進展はPをAsで置換する研究であった。これは負の化学的圧力効果に対応しており、二段転移がともに低温側へシフトする。60%まで置換すると1つの転移が絶対零度以下に下がり、1つの転移のみが観測される。この基底状態について、磁気抵抗測定、低温X線回折、Eu-L3端X線吸収実験で調べたところ、二段転移の中間相であるβ相が基底状態になっていることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
EuRh2Si2の圧力誘起価数転移の振舞について、磁化、電気抵抗、熱膨張の測定から一通りの測定が済み、温度-圧力相図を完成させることができた。更に反強磁性消失直後に0.25Kまで電気抵抗を測定し超伝導が観測されないことを確認した。これらの結果はJ. Phys. Soc. Jpn.に掲載されて一区切り着いたところで順調に進展している。EuPtP系についてはPサイトのAs置換系試料について、2つの価数秩序相(β相、γ相)の振舞について詳細が明らかになってきている。また、As置換系の昨年度までの成果をEur. Phys. J. Bに掲載することができた。これらの点は順調に進展している。一方、改良ブリッジマンセルによってEuPtPに対してより高い圧力を加える研究は、高圧セルの導入にやや時間がかかっており、もう少しペースを上げたいところである。また、EuPdP、EuNiP、EuPdAsの試料作製についても試料作製条件をいろいろと試行錯誤しているところであるが、今のところ成功していない。
EuRh2Si2については圧力誘起価数転移が熱ヒステリシスを持つが、7T程度の磁場下でこのヒステリシスが非常に大きくなり、温度下げ過程で価数転移が見えなくなることがわかってきた。このように磁場中における価数転移の振舞についても興味深い性質がわかってきたので、これをより詳細に調べる。また、EuNi2Ge2やEuNi2P2についても価数揺らぎが大きくなる領域の振舞を調べることにする。EuPtP系については改良ブリッジマンセルの導入を進め、8GPaまでの圧力下で新たな価数転移や価数秩序構造の出現について調べていく。こちらについては改良ブリッジマンセルの導入が予想以上の遅れるようであれば、東大物性研の上床研究室のキュービックアンビルセルを使った共同研究に切り替えて研究を進めることにする。EuPdP、EuNiP、EuPdAsについては現在Liをフラックスに用いる方法が有効ではないかということがわかったたため、この方法を早急に導入して試料作製に努める。
本年度は、以上の研究を行うために、物品費は、主に高圧セルの消耗部品、液体ヘリウム、窒素などの寒剤、試料作製のための原料金属の購入に充てる。旅費については、国際会議および国内学会の発表のために使用する。特に7月に韓国で行われる国際磁性会議2012(ICM2012)においてEuRh2Si2の研究を口頭発表することになっており、本研究を大いにアピールしたいと考えている。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (17件)
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