研究課題/領域番号 |
23540416
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
小久保 伸人 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (80372340)
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研究分担者 |
岡安 悟 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 主任研究員 (50354824)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 微小超伝導体 / 磁束量子 / 走査SQUID顕微鏡 / アモルファス超伝導膜 / メゾスコピック性 |
研究概要 |
平成23年度は初年度であり、本研究課題のテーマである幾何学的な磁束量子渦状態を見出す新しい微小超伝導体の作製とそれに必要な準備研究、およびテストを行った。当初の計画どおり、アモルファスMoGe超伝導薄膜から円形状の微小超伝導体を微細加工で作製し、印加する磁場の大きさで量子渦の数を調整しながら、量子渦の可視化実験を行った。その結果、直径80μmの円形状試料において、量子渦数が印加磁場に対して階段状に増加する微小超伝導体に特有な性質(メゾスコピック性)を見出した。量子渦の配列は、渦数が5以下において多角形、6以上においてシェルと呼ばれる多重のリング配列となった。いずれの渦配列も円の中心に対して点対称な対称性をもち、先行する理論研究の結果と直接比較できるほど理想的な結果であった。Nb などの単結晶膜では材料の欠陥や格子歪の影響により対称性のよい渦配列は報告された例はなく、アモルファス超伝導体の重要な特徴の1つであることがわかった。さらに次年度の計画にある四角や三角形の他、計画にはない微小な穴(アンチドット)を設けた微小超伝導体の作製の準備研究も行った。アンチドットを設けることにより、本研究課題の中心テーマでもある反渦を伴う量子渦状態が現れやすくなることが、ベルギーの理論グループによる計算機シミュレーションで明らかにされたためである。アンチドット試料を含めた微小超伝導体を作製するため、微細加工の工程に必要なフォトマスクの作製とエッチングの条件出しを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題研究は平成23年から25年までの3カ年の研究期間で、微小超伝導体に閉じ込めた量子渦状態を見出す実験的研究を実施する。平成23年度は初年度であり、研究計画に従って、幾何学的な磁束量子渦状態を見出す新しい微小超伝導体の作製とそれに必要な準備研究、およびテストを行った。当初の計画どおり、高周波スパッタ装置を用いたアモルファスMoGe超伝導膜の成膜を行い、円形状の小さなドットに微細加工した。試料評価を行う走査SQUID磁気顕微鏡装置は、東北太平洋沖地震の被災地である茨城県那珂郡東海村の(独)日本原子力研究開発機構・先端基礎研究センターに設置されていた。震災後、装置外見に問題はなかったが、低温に冷却し動作させるとケーブルのショートや装置チャンバー内のわずかなガスリークなどいくつか異常が認められた。これら問題に対処する作業に手間取ったが、当初の計画通り円形状の試料における量子渦の可視化実験を行うことができた。その結果、直径80μmの円形状の試料において、量子渦数が印加磁場に対して階段状に増加するメゾスコピック性を見出し、円の中心に対して点対称な理想的な量子渦の多角形やシェル配列を見出した。これらの成果から、アモルファス超伝導膜を用いることにより、来年度の平成24年から実施する四角・三角形状の微小超伝導体において、超伝導体の形状を反映した渦配列だけでなく幾何学的閉じ込めの傍証である反渦も観測できる見通しがついた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、四角形状の微小アモルファス超伝導体の作製と走査SQUID磁気顕微鏡による量子渦配列の可視化実験を行う。四角形状の微小超伝導体では、量子渦数が4の場合、超伝導体の形状と一致する量子渦の四角配列が最も安定な量子渦状態として期待される。このためまず、印加磁場と量子渦数の関係を調べ、四角配列が現れる磁場範囲を明らかにする。次に量子渦数が3の場合、量子渦は三角配列を組もうとするが、これは四角形状の微小超伝導体と幾何学的に一致しない。幾何学的な安定性により、四角配列を組む4つの量子渦状態の中心に反対の向きの量子渦(反渦)が現れる可能性がある。量子渦数が4から3へ移り変わる転移磁場付近に着目し、反渦を伴う量子渦状態の観測を目指す。平成25年度は、三角形状の微小アモルファス超伝導体の作製と走査SQUID磁気顕微鏡実験を行う。三角形状の微小超伝導体では、量子渦の三角配列が最も安定な状態として期待される。このため、量子渦数が3から2へ減少する磁場領域に着目し、三角配列の中心に反渦を伴う量子渦状態の観測を目指す。併行して微小な穴(アンチドット)のある微小超伝導体の実験も行っていく。渦配列をアンチドットで固定し、反渦の発生を幾何学的に促すためである。ベルギーの理論グループの計算機シミュレーションの結果と比較できるように四角形状の微小超伝導体に小さな穴を設け、量子渦数が4から3へ減少する転移磁場範囲を中心に実験を行ってゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費の多くは走査SQUID磁気顕微鏡の実験に必要な寒剤(液体ヘリウム)の購入費に充てる。走査SQUID磁気顕微鏡が設置されている(独)日本原子力研究開発機構・先端基礎研究センターの実験室には、寒剤となる液体ヘリウムの液化及び回収の設備が整っていない。このため、寒剤はすべて外部からの購入に頼っている。量子渦の可視化には1画像あたりおよそ20分程度の測定時間がかかる。さらに実験装置の立ち上げや調整にかかる時間を考慮すると、3日間分の寒剤量に相当する100リットルの液体ヘリウムが1回の実験に必要となる。再現性のほか、異なる試料のサイズ、形状が与える影響を調べるためには、3日間に及ぶ実験を年間あたり3~4回程度実施する必要がある。限られた予算で効率的に成果を上げるため、研究費の一部を旅費に充て、研究代表者は研究分担者と協力して観察実験に取り組む。微小な穴を設けるアンチドット試料については、適切な穴の形状や大きさが明らかにされていない。磁気顕微鏡実験を進めることにより経験的に見出す必要がある。このため研究費の一部を試料の成膜に必要なMoとGeのスパッタターゲット材料、基板(Siウエハ)、そして微細加工に必要なフォトマスクの購入費に充てる。
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