研究課題/領域番号 |
23540418
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
辺土 正人 琉球大学, 理学部, 准教授 (00345232)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 価数転移 / 熱電能 / 熱伝導率 / 比熱 / 高圧力 |
研究概要 |
今年度は常圧の熱電能システムを使って、熱伝導率も同時に測定できる手法を吟味した。ヒーターの熱量を決定するために、ヒーターの電気抵抗の温度依存を詳細に測定した。熱伝導率が既知の参照試料(Ni, Co, YCo2 など)の熱電能を測定し、測定によって求められた熱電対間の温度差とヒーターの熱量を用いて、熱伝導率を計算した。このとき、試料と試料以外に散逸する熱流をこの2つの並列回路とする等価回路モデル計算によって、試料への熱流を見積もった。約50K以上では参照試料の報告されている熱伝導率の温度依存を再現することができたが、低温、特に 15K 以下では、熱伝導率がゼロになってしまい、データを再現できなかった。改善すべき問題はあるものの、我々の手法で、熱電能と熱伝導率の同時測定は可能であるということがわかった。EuNi2Ge2 の Ge サイトを Si に置換すると価数転移が起こるという報告があり、母物質への加圧によっても同様に起こるので、置換による化学的圧力と物理的圧力はスケール出来る、つまりGe-Si置換は結晶サイズへ変化させるだけであると考えられてきた。しかし、我々はこれらの置換と加圧下で熱電能測定をすることで、フェルミ準位近傍の状態密度に違いがあることを見いだした。わずかにSi を置換した EuNi2(Ge0.9Si0.1)2 を圧力下熱電能を測定すると、価数転移後のゼーベック係数の圧力依存が異なっており、Si を導入することで状態密度が変化することがわかった。EuNi2Ge2 と類似構造を持つ EuNiGe3 や EuNiSi3 の圧力効果を測定し、圧力誘起価数転移の可能性やその磁性、輸送特性について、日本物理学会や高圧力学会で報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究開始時に提出した申請書に記載した研究計画の事項はすべて実行し、予定通りの結果を得ている。実験手法の開発の方では熱伝導率測定が可能になり、価数転移物質測定においては置換系の電子状態について議論できた。一方、測定手法開発の方では想定したモデルでは見積が不十分である問題があり、新しい圧力容器開発では安定した圧力発生には至っていない点は、進度が遅れている。しかし、価数転移物質測定では、新たな物質探索を進めることができて、当初計画以上の進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
熱伝導率測定で低温側測定が問題は、モデルの最適化を行うことで改善できると考えている。さらに今年度の計画にある比熱測定も組み合わせると、試料から外部へ拡散する熱伝導率を決めることができるので、そこさらに見積もることで、より正確な熱伝導率決定が可能になると考えている。熱電能、熱伝導率、比熱の3つの物理量を同時に見積もることで、特に熱伝導率の精度があがることが期待できる。今年度はさらに圧力下での測定へ拡張することも計画している。遅れ気味の高圧容器開発の方は高知大の北川氏からアドバイスを頂き、アンビルに穴を設けてそこからリード線を取り出すことで、6GPa 程度の圧力発生を容易に行えるようになると考えられる。ガスケットの最適化を進めて、安定した圧力発生を目指す。Eu化合物で新しい圧力誘起価数転移物質の探索を進めて、価数転移による磁性とフェルミオロジーの理解をすすめる。これらの成果は、国内学会、国際会議等で報告していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
大型の物品購入は予定しておらず、圧力装置の消耗品と学会等への参加旅費で概ね使用することを考えている。今年度は比熱測定も同時に測定できるように実験手法の拡張を行う予定であるが、低温では熱緩和が早いので、比熱を精度良く測定するには、温度測定を高速で行う必要がある。現有の装置で測定可能なのか、難しい場合はどの程度の温度まで計測可能かを見極める予定にしており、それによりさらに次々年度の計画を考えていく予定。
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