研究課題
カゴ状構造を持ち低熱伝導率が報告されている CeRuGe3 について、常圧下で電気抵抗・熱電能・熱伝導率同時測定を行ったところ、熱伝導率の温度依存性は過去の報告を再現できたが、絶対値については一桁ほど大きくなった。反強磁性体Mn3Si に対して、電気抵抗測定だけではよく分からなかった整合-非整合転移に対応する変化の圧力依存を熱電能・熱伝導率で観測することができた。これらのことにより、同時測定の定性的な温度・圧力変化を評価することができることは確認できた。しかし比熱も含んだ同時測定では、試料台や圧力媒体への早い熱緩和により測定が困難になっている点や熱起電力から温度へ変換するモデルの構築がうまくいっておらず、具体的な成果が得られていない。Eu化合物の圧力誘起価数転移の探索について、今年度はEuGa4, EuAl4, EuNi2P2, EuRu2P2, EuSn3 の純良単結晶育成と、ドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果測定によりフェルミ面の形状を評価できた。その中で、EuGa4 を 10GPa 以上まで加圧すると、電気抵抗での反強磁性転移と思われる異常は緩やかな変化に変わり、その圧力に対する変化はそれまでの反強磁性転移の圧力依存より変化率が大きくなっていることから、二次転移的に反強磁性転移から価数転移へ変化していると考えている。また、EuGa4 の高圧下では高温側に圧力誘起CDW転移が出現しており、僅かに a軸の小さいEuAl4 では常圧で対応する変化が初めて確認された。dHvA 効果測定によってネスティングを起こしやすい形状のフェルミ面が観測されていることから、それが CDW転移の原因であると考えている。これらのことは、日本物理学会や日本高圧力学会で報告を行っており、Journal Physical Society Japan に論文を投稿、投稿準備中である。
2: おおむね順調に進展している
研究計画の事項はすべて実行し、予定通りの結果を得ている。実験手法の開発の方では熱伝導率測定が定性的な測定は可能であることが十分に評価できた。価数転移物質測定においては、価数転移をする物質を見つけることができ、さらにその理解のために導入した dHvA 測定は大きな成果が得られている。測定手法開発の方では、昨年評価したこの装置での熱流回路に対しての係数をそのまま用いたが、試料形状の効果や昨年の検討課題である熱流回路の再考が必要であり、さらに比熱測定の部分に関しては具体的な評価まで至っていない点は進度が遅れていると思われる。しかし、純良単結晶育成、dHvA測定などの新しい試みや、測定手法開発部分でもヒーターの小型化など新しいアイディアが多く生まれ、確実に前進しており、当初計画して以上に進展している部分が多々ある。総合的に判断して、「おおむね順調に進展している」と考えている。
同時測定の方は、絶対値測定はかなり難しいと考えられるので、まず定性的変化が観測できるようにシステムの構築を目指す。進度の遅れている比熱測定に関して、まず熱伝導率と同様に窒素温度以上で十分な熱容量が確保される環境で早いサンプリング時間とそのサンプリング数を増やして比熱が評価できるようにする。また、熱起電力から温度への換算は、熱起電力の温度依存を関数化することで評価する。新しい Eu 化合物の探索を積極的にすすめ、EuPd2Si2、EuIr2Si2 、EuPdIn4、EuNi2(P,As)2 などの単結晶育成、高圧実験を試みる。昨年、価数転移の兆候を観測した EuGa4 や同型の EuAl4 についても、再実験やさらに高圧下の実験をすすめて、価数転移と電子状態について考察を進める。
最終年度なので、大型の物品購入は予定しておらず、液体ヘリウムの費用などの消耗品費と学会等への参加旅費で概ね使用することを考えている。また、成果報告のための学術誌への投稿も積極的に行い、その投稿費等も考えている。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件)
Journal of Physics: Conference Series
巻: 400 ページ: 032107-4
10.1088/1742-6596/400/3/032107
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 82 ページ: 014708-6
10.7566/jpsj.82.014708
巻: 200 ページ: 032106-4
10.1088/1742-6596/400/3/032106
巻: 81 ページ: 024716-7
10.1143/jpsj.81.024716