研究課題/領域番号 |
23540420
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
松田 和之 神奈川大学, 工学部, 准教授 (60347268)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 核磁気共鳴 / 1次元電子系 / 朝永-ラッティンジャー液体 |
研究概要 |
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)はその1次元性に起因し、朝永-ラッティンジャー液体状態や、ファンホーブ特異性による電子状態密度の発散などの1次元系の電子物性を探究する格好の舞台となっている。SWCNTには金属型と半導体型が存在するが、そのどちらか一方の選択的合成は実現されていないため、これまでの実験的研究は金属・半導体型が混在したバンドル試料で行われてきた。特に核磁気共鳴(NMR)法を用いた研究では、このような混在試料では半導体と金属型SWCNTからの13C核NMRシグナルを個別に観測することが不可能であるため、それらの電子状態について得られる情報は限られていた。本研究では、アーク放電法により作製された平均直径1.45 nmのSWCNT試料を密度勾配遠心分離法により半導体と金属型に分離することにより、両者のNMR信号を個別に測定することに成功し、それら各々の電子状態について微視的な情報を得た。すなわち、金属型と半導体型SWCNTで、ともにsp2結合カーボンに特徴的な化学シフトの異方性が支配的な粉末パターンのNMRスペクトルが観測され、両者のスペクトルのシフト値は異なることを明らかにした。このNMRシフトの違いは環電流による化学シフトが両者で異なることと伝導電子の寄与によるナイトシフトによると考えられる。さらに、金属型SWCNTで得られた核スピン-格子緩和率は20~200 Kの温度領域で朝永-ラッティンジャー液体状態で期待される温度のべき乗則に従い、この緩和率の温度依存性の解析結果から、ラッティンジャーパラメータは0.36と得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していたように、半導体型と金属型が混在したSWCNT試料を半導体型SWCNT試料と金属型SWCNT試料に分離し、それらの13C核NMRを行うことにより電子状態についての微視的な情報を得ることができた。また、当初、熱処理によるフラーレンC60分子を内包したSWCNTから2層CNTの変換過程の解明を計画していたが、これを達成するには現時点で測定を終えている試料に加え、新たに変換の中間過程にある試料を、数種類の熱処理条件の下で作製し、そのNMR測定を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、金属型と半導体型のSWCNTの電子状態を13C核NMR測定を行うことにより調べるとともに、C60フラーレン分子を内包したSWCNTから2層CNTへの変換中間過程にある試料作製とそれらの試料のNMR、x線回折実験を行い、2層CNTへの変換過程を解明する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
金属型、半導体型SWCNT、フラーレンC60分子内包SWCNTとその関連物質の作製に必要な高純度カーボンナノチューブ試料と試料調整用器具、またNMR測定に必要な石英試料管などの消耗品と、外部研究機関で実験を行うためと研究成果発表のための旅費に使用する計画である。
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