単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は内部に1次元的空間を有するナノ炭素物質であり、金属型と半導体型が存在する。本年度は主にSWCNT内部空間の物質系について研究を行った。 C60フラーレン分子を内包したSWCNTから2層カーボンナノチューブへの変換機構を調べるために、C60内包SWCNT試料の熱処理の温度や時間を系統的に変化させながら、13C NMR測定を行った。1050℃で熱処理を行った平均直径1.44 nmのSWCNT試料のNMR実験から、熱処理時間に応じ、内包C60分子からの自由回転運動により先鋭化されたNMR信号強度が減少し、代わりに運動が凍結した生成物のsp2炭素由来のNMR信号強度が増大する結果を得た。また、1200℃,14時間の熱処理を施した試料ではC60からのNMR信号は観測されなかった。これらNMR結果にx線回折結果と合わせると、熱処理により内包C60が徐々に内側CNTに変換されたことがわかる。計算機実験や電子顕微鏡観察などから、変換過程でC60ダイマーやC60トリマーなどが形成されることが報告されているが、それらC60ポリマーの生成を示すようなsp3炭素由来のNMR信号や1軸回転により先鋭化されたNMR信号は観測されなかった。 密度勾配超遠心分離法にて金属型と半導体型に分離した平均直径1.44 nmのSWCNTと、さらに同じくナノ炭素物質であるゼオライト鋳型炭素に重水を吸着させ、内包水の2H NMRを行った。その結果、分離前のSWCNT試料で支配的であった磁性不純物による2H核スピン緩和の寄与は分離後の試料では観測されず、水分子ダイナミクスによる本質的な核スピン-格子緩和時間が得られた。得られた緩和時間は金属型と半導体型SWCNTでは有意な差は見られない。これらの結果から内包水分子のダイナミクスはSWCNTの電子状態に依存しないことを明らかにした。
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