研究課題
充填スクッテルダイトPrRu4P12の極低温において、4f電子と原子核スピンが超微細結合することにより形成される複合多重項状態の比熱および磁化測定による実験的観測を再確認および整理し、この成果をまとめて論文発表した(研究発表を参照。本論文はJ.Phys.Soc.Jpn.の注目論文に選ばれた)。この観測は、結晶固体中において初めてである。本研究では、PrRu4P12で期待される「4f電子+伝導電子+核」の3者による新しいタイプの強相関電子状態の形成を、今後実験的に検証していくことになる。今後本研究では、電子輸送特性や極低温における各種物性測定を行うために十分な大きさのPrRu4P12純良単結晶が必要となる。フラックス法による単結晶育成条件の探索を進め、最終的に1mm以上の単結晶を複数個得ることができた。また、極低温電子輸送特性を高精度で測定できるようにするために、希釈冷凍機を用いた測定装置の改良を進めた。PrRu4P12の複合多重項状態の相補的な情報を得るためは、ミュオンスピン緩和測定、超音波弾性定数測定、極低温磁化測定が有効である。これらの実験について、打ち合わせおよび準備を開始した。また、超微細結合多重項形成の観測が期待できる他の充填スクッテルダイトやRT2X20などのかご状物質系を中心に物性探索を進めた。その結果、後者の化合物系においてTmを含む候補物質を見出した。この系については、引き続き次年度に極低温物性測定を行い、この可能性を検証していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究について第一報となる、4f電子-原子核スピンの複合多重項状態の熱力学的物理量測定による実験的観測を論文発表することができた(研究発表を参照)。電子輸送特性や極低温各種物性測定を行うために必要となる純良単結晶育成条件の探索は順調に進み、1mm程度の単結晶を複数得ることができた。極低温電子輸送特性測定を高精度で行うための装置整備も、順調に進んでいる。極低温における電子輸送測定は、震災に伴う電力使用の抑制や液体ヘリウムの入荷制限により、当初の予定よりも遅れ気味ではあるが、その代わりに、かご状物質系を中心とした物性探索に重点を置き、複合多重項状態の形成が期待される候補物質(Tm金属間化合物)を見出すことができた。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
希釈冷凍機を用いた測定装置の整備を完了し、極低温における電子輸送測定を開始する。各種物性測定に必要となるPrRu4P12の純良単結晶育成は、平成23年度に引き続き行い、複合多重項状態の相補的な情報を得るための実験となる、ミュオンスピン緩和測定、超音波弾性定数測定、極低温磁化測定に用いる。新奇物質探索においては、平成23年度の後半から厳しい状況となった世界的なヘリウムガス欠乏に起因する液体ヘリウムの入荷制限が大きな問題である。これに対応するため、液体ヘリウムを用いず物質探索を効率良く進めるためのクライオスタットの設計作成を行う。また、当初価格よりも高騰している液体ヘリウムの購入費用の不足が見込まれる。これらに、次年度に使用する予定の研究費を充てる(当初、電気抵抗およびホール効果の極低温での高精度測定を行うために、低抵抗試料測定用ACブリッジの購入を考えていたが、複合多重項に起因する強相関電子状態を究明するためには、熱電能の測定も非常に有効であることが明らかとなり、そのためにDC低電圧測定へと実験手法を変更した。この変更に起因する差額に該当する)。また、平成23年度のかご状物質系における物性探索で見出したTm金属間化合物において、複合多重項状態の形成の有無を、まずは極低温における比熱測定により検証する。
液体ヘリウムを用いず効率良く新奇物質探索を進めるための冷凍機を使ったクライオスタットの設計作成、当初価格よりも高騰している液体ヘリウムの購入費用、純良単結晶育成に必要となる金属材料の購入が主たる用途である。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (8件) 備考 (2件)
J. Phys. Soc. Jpn.
巻: 81 ページ: 034705-1-8
10.1143/JPSJ.81.034705
J. Phys. Soc. Jpn
巻: 80 ページ: 093703 (4)
10.1143/JPSJ.80.093703
巻: 80 ページ: SA013(3)
10.1143/JPSJS.80SA.SA013
巻: 80 ページ: 063708 (4)
10.1143/JPSJ.80.063708
巻: 80 ページ: 054704 (7)
10.1143/JPSJ.80.054704
http://www.tmu.ac.jp/news/topics/3274.html?d=assets/files/download/news/press_110510.pdf