研究課題/領域番号 |
23540421
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
青木 勇二 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (20231772)
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キーワード | 強相関電子系 / 超微細結合多重項 / 多極子 / 核スピン / 充填スクッテルダイト / かご状物質 |
研究概要 |
充填スクッテルダイトPrRu4P12で見出した、極低温領域における「4f電子と原子核スピンが超微細結合することにより形成された複合多重項状態」について、エントロピーを解析することにより、熱力学的な妥当性を確認した。ゼロ磁場下の測定温度領域内で吐き出されるエントロピーがRln3を超えていることを示し、核スピン自由度が関与していることを確認した。 さらに、この複合多重項に伝導電子が混成し発現が期待される、「4f電子+伝導電子+核」の3者による新しいタイプの強相関電子状態の形成を実験的に検証するため、単結晶試料を用いた極低温における電子輸送測定を進めた。電気抵抗やホール抵抗に、磁場方向に強く依存する特徴的な磁場依存および温度依存を観測した。この結果は、低磁場低温領域に、上述の「3者による新奇強相関電子状態」が形成されていることの証拠を与えている可能性がある。 核断熱消磁等の方法により、さらに極低温での基礎物性測定を進めるために、フラックス法による単結晶試料育成をすすめた。 核スピンが関与する新奇f電子状態の物性探索を、かご状物質系を中心に進めた。ピーナッツカゴ状構造を持つTm6Cr4Al43において、f電子の結晶場準位構造が、擬2重項基底状態を持つことがわかった。ピーナッツカゴ状構造の中で2つのTmイオンが近接しているため、この2つがペアを組み、2量体を形成する可能性がある。今後、基礎物性測定を進め、これを確認していく。 核スピンとf電子の結合が期待されるPrFe4P12の極低温領域を電子輸送係数の測定により調べた。その結果、磁場を[111]方向に印加した極低温領域において、これまでに知られていた秩序変数が不明な秩序相(B相)の高磁場側17T以上に、新たなC相が存在することを見出した。今後、系統的な測定を進め、それらの秩序相における核スピンの関与を調べていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、(1)PrRu4P12の低温領域におけるエントロピー変化量から核スピン自由度が関与していることを確認したこと(複合多重項形成の証拠)、(2)磁場方向に強く依存する特徴的な磁場依存および温度依存を電気抵抗やホール抵抗に見出したこと(新奇強相関電子状態の形成の証拠)、(3)核スピンが関与する新奇f電子状態の物性探索により、候補物質Tm6Cr4Al43が得られたこと、(4) PrFe4P12の極低温強磁場領域に新たな秩序相を発見したこと、などの成果が出ており、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。 問題点としては、前年度に比べてヘリウムガスがさらに世界的供給不足の状況となり、液体ヘリウムの入荷制限により、極低温における基礎物性測定が当初の予定よりも遅れ気味であることである。そこで、液体ヘリウムなしで極低温基礎物性測定ができるように、現存の冷凍器の改造を進めた。断熱消磁を利用することにより、本研究で必要とする極低温領域に到達可能である。次年度は、この冷凍器を利用した実験を進めることにより、この問題に対応する。
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今後の研究の推進方策 |
複合多重項状態の相補的な情報を得るための各種実験(ミュオンスピン緩和測定、ESR測定、極低温磁化測定など)を進める。そのために必要となるPrRu4P12の純良単結晶育成を平成24年度に引き続き行う。 世界的なヘリウムガス欠乏に起因する液体ヘリウムの入荷制限に対応するため、液体ヘリウムなしで極低温基礎物性測定ができるように、現存の冷凍器の改造を平成24年度に進めた。平成25年度前半は、これに断熱消磁の機能を組み込み、本研究で必要とする極低温領域に到達可能となるよう改良する。平成25年度後半で、これを活用しながら、極低温におけるPrRu4P12の電子輸送効果などの測定実験を行い、低磁場低温領域に「3者による新奇強相関電子状態」が形成されていることの証拠を探る。 また、平成24年度の物質探索で得られたピーナッツカゴ状構造を持つ候補物質Tm6Cr4Al43の基礎物性評価および極低温における電子輸送効果の測定を進め、核スピンが関与する新奇f電子状態の有無を検証する。また、ピーナッツカゴ状構造の中で2つのTmイオンが近接しているため、この2つがペアを組み2量体を形成する可能性もあり、この検証も同時進行で進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の残金が発生した理由は、液体ヘリウムの入荷制限(ヘリウムガスの世界的供給不足による)のため、極低温実験が一部実施できなかったためである。 液体ヘリウムなしで極低温基礎物性測定ができるように、現存の冷凍器の改造を平成24年度に進めたが、これに断熱消磁の機能を組み込む作業を平成25年度前半に行う予定である。平成24年度に使用を予定していた上述の物品購入予算を、これに充てる。
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