研究課題/領域番号 |
23540422
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
川又 修一 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50211868)
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キーワード | 超伝導ナノ構造 / 超伝導接合 / 超伝導論理デバイス / 超伝導磁束量子 / 銅酸化物超伝導体 |
研究概要 |
本研究では、超伝導複合素子dドット、すなわち従来型金属s波超伝導体に囲まれたd波超伝導体である酸化物高温超伝導体を作製し、超伝導波動関数の位相干渉により、dドットのコーナーに自発的に発生する半磁束量子を検証する。さらに複数個のdドットを配列することにより、論理回路を構築する。 単一dドットの作製条件を確立する目的で、単一dドットにおける自発的磁束発生の再現性を確認した。単一dドットの作製方法は以下のとおりである。d波超伝導体としてFZ法により作製したビスマス系酸化物高温超伝導体 BSCCO単結晶を用い、従来型超伝導体として鉛 Pb を用いて作成を行った。Si基板にポリイミドを用いて接着した単結晶を剥離劈開により厚さ2 μm以下にし、レジストを用いてフォトリソグラフィーした後、イオンミリング装置を用いて40 μm角、基板表面からの高さ2.0 μm以下に加工した。再度レジストを用いてフォトリソグラフィーした後、Pbを蒸着しリフトオフした。 作製したdドットについて、SQUID磁束計に接続する直径7 μmのピックアップ・コイルを1 μm以下の精度で走査することができる走査型SQUID顕微鏡を用いて、磁束分布の直接観測を行った。s波d波両方の超伝導体が超伝導状態となる試料温度4.0 K以下、およびd波超伝導体のみが超伝導状態でありs波超伝導体が常伝導状態となる温度12 Kで測定を行った。その結果、4.0 K以下の温度では自発的磁束が観測され、温度12 Kでは観測されなかった。したがって、観測された磁束はd波とs波の超伝導波動関数干渉効果によるものであると言える。以上により、自発的半磁束量子発生を再現検証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記載したとおり、BSCCO単結晶と鉛を用いて作製した単一dドットにおいて、自発的半磁束量子発生を検証した。すなわち、dドットにおけるs波超伝導体とd波超伝導体の位相干渉による自発的半量子磁束の再現性を検証することはできた。しかしながら平成25年度において、複数のdドットを組み合わせた論理回路を作製する予定であったが、スイッチング動作可能な論理回路素子の作製条件を確立できていない。すなわち、左上と右下コーナーでプラス+の磁束、右上と左下コーナーでマイナス-の磁束となる磁束状態(磁束状態0)と左上と右下コーナーで-の磁束、右上と左下コーナーで+の磁束となる磁束状態(磁束状態1)間のスイッチング動作可能な素子を作製できていない。 この原因として、d波とs波の超伝導体界面の加工精度が不十分であることによると考えられる。BSCCO単結晶を加工する際、これまでフォトリソグラフィーおよびイオンミリング装置を使用してきた。これらに加えて本学先端科学研究センター棟クリーンルーム・クラス1000設置の収束イオンビーム加工装置(FIB)を併用することで界面加工精度を0.1 μm程度にすることができる。今回、FIB装置を使用する際の加工条件設定の検証を行った。FIB装置を用いると、高電圧で加速されたイオンビームを用いるため、加工時における結晶のダメージが大きくなる。そこで、FIB加工後、イオンミリング装置により極力弱いビームを用いて、FIB加工の際生じるダメージ部位を取り除く必要がある。この目的に合うように、イオンミリング装置による加工条件設定の検証も再度行った。
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今後の研究の推進方策 |
複数個のdドットを配列することにより、論理回路を構築する。素子作製の際におけるd波とs波超伝導体界面の加工精度を向上させるために、平成25年度にFIB装置およびイオンミリング装置の条件設定を再度行った。この条件にしたがい、FIB加工を併用しイオンミリング装置によりFIB加工のダメージ部位を取り除く加工方法を用いて、スイッチング動作可能なdドット論理回路素子の作製を行う。フォトリソグラフィーで用いるマスクは本学先端科学研究センター棟クリーンルーム・クラス10に設置されている、電子ビーム露光装置を用いて作製する。dドットでは、左上と右下コーナーでプラス+の磁束、右上と左下コーナーでマイナス-の磁束となる磁束状態(磁束状態0)と左上と右下コーナーで-の磁束、右上と左下コーナーで+の磁束となる磁束状態(磁束状態1)はエネルギーが等しく等確率で出現する。一つのコーナー周辺に電流を流すことによりこのコーナーにおける磁束の向きを反転すると、他の3つのコーナーの磁束も反転し、磁束状態0と磁束状態1のスイッチング制御が行えるようになる。さらに隣接するdドットのコーナー磁束が磁束状態1および2における磁束に反応し、情報伝達させることができる。走査型SQUID顕微鏡を用いた磁束分布観測により、電流によるdドット磁束状態間のスイッチングを観測し、論理回路の動作を確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度にdドットを組み合わせた論理回路を作製し、磁束分布観測により動作の検証実験を行い、物理学会および国際会議にて発表する予定であったが、論理回路作製に成功しなかったため、計画を変更し作製において主要な役割をになうイオンミリング装置および収束イオンビーム装置のビーム条件設定の解析を再度行ったため、未使用額が生じた。 このため、平成26年度にdドット論理回路を作製、動作確認検証実験を実施し、学会発表を行うこととする。未使用額は実験に必要な液体ヘリウム用ヘリウムガス購入費用、および学会における研究報告の費用に充てることとしたい。
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