本研究では、超伝導複合素子dドット、すなわち従来型金属s波超伝導体に囲まれたd波超伝導体である酸化物高温超伝導体の複合構造を作製し、s波およびd波超伝導体間における超伝導電子対波動関数の位相干渉により、dドットのコーナーに自発的に発生する半磁束量子を検証した。これにより、銅酸化物高温超伝導体BSCCOの超伝導波動関数対称性がd波であることに関して、決定的な証明を与えることができた。 dドットの作製方法を以下に示す。d波超伝導体としてビスマス系銅酸化物高温超伝導体 BSCCO単結晶を用い、従来型超伝導体として鉛を用いた。シリコン基板に接着したBSCCO単結晶を剥離劈開により厚さ2 μm以下にし、フォトリソグラフィーした後、イオンミリング装置を用いて40 μm角、基板表面からの高さ2.0 μm以下に加工した。再度フォトリソグラフィーした後、鉛を蒸着しリフトオフした。 最終年度では、イオンミリング加工後に集束イオンビームを用いた成型工程を加えることにより、dドット加工精度を大きく向上させた。加速電圧40 kVの集束イオンビーム加工によりダメージを受けた結晶表面部位は、加速電圧100 Vの弱いビームを用いて再度イオンミリングすることにより取り除いた。 作製したdドットについて、SQUID磁束計に接続するピックアップ・コイルを1 μm以下の精度で走査することができる走査型SQUID顕微鏡を用いて、磁束分布の直接観測を行った。s波d波両方の超伝導体が超伝導状態となる試料温度4 K以下、およびs波超伝導体が常伝導状態となる温度12 Kで測定を行った。その結果、4 K以下の温度では自発的磁束が観測され、温度12 Kでは観測されなかった。したがって観測された磁束は、d波とs波の超伝導波動関数間の干渉効果による自発的半磁束量子発生を検証するものである。
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