研究課題/領域番号 |
23540423
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
開 康一 学習院大学, 理学部, 助教 (00306523)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 磁場有機超伝導 / NMR / BETS / スピンダイナミクス |
研究概要 |
研究初年度であるH23年度は、まず、試料の混晶比を評価するためにEPMAによる元素分析を行ない、巨視的な結晶の全域で組成比が仕込みのそれとほぼ対応していることを確認した。電気伝導度測定によると、l-(BETS)2(FeGa)Cl4の系はGa濃度とともに、連続的に磁場誘起超伝導相が低磁場側にシフトすることが報告されている。研究初年度の23年度は、この磁場-温度相図の微視的検証のため、研究代表者のグループで所有するNMR分光計、およびGrenoble High Magnetic Field Lab(フランス)の設備を用いてl-(BETS)2FeCl4のFeサイトを磁性のないGaで40%置換した系、および20%置換した系でSe-NMR実験を行った。Fe100%塩、Ga100%塩で得られているp-d相互作用とBETS分子の2次元伝導面内での電荷不均化のパラメータを用いて、一定磁場でのSe-NMR吸収線の温度依存の解析から、1. Ga20%の系での交換相互作用は概ね組成比を反映している、2. Ga濃度のより高い40%の系では交換相互作用の大きさが電気抵抗測定で得られているそれよりも大幅に小さいこと、3. Ga40%の系で特に顕著にNMR線幅が広がっていることを得た。100%の系で見られなかった「乱れ」の効果が現れていることを示唆している。これらの成果は日本物理学会2011年秋期大会、およびポーランドで開催されたISCOM2011会議にて報告した。また、Fe100%塩の低磁場領域のスピンダイナミクスを検証することを目的として予備的な1H-NMR測定を行い、微小な単結晶試料で測定に十分な信号強度が得られることを確認した。今後、詳細な測定を行なう準備ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強磁場での磁場有機超伝導領域を研究するために応募者の研究グループの9T超伝導磁石を用いた実験に加えてフランス国GHMFL(Grenoble High Magnetic Field Lab.)の17T磁石を用いた実験を行った。GHMFLでの実験は装置の不具合による理由で予定していた測定のすべてを行うことができなかった。しかし、その分Fe塩の低磁場側スピン状態を研究するための時間が得られ、予備的ではあるが、測定を進めることができた。応募時に期待した通り、Ga濃度が20%と比較的薄い領域の系では伝導電子スピン系との交換相互作用がGa濃度に応じて小さくなる傾向が観測された。Ga40%の系では交換相互作用の大きさは、電気抵抗の測定から報告されている値と比べて大きく減少していること、NMR線幅の広がりがFe塩/Ga塩と比べて大きいこと、が観測された。このことは混晶によってはじめて観測された現象である。H24年度に向けて線幅の定量的な評価や広い線幅の起源など考察を加える。Fe塩の低磁場側のスピン状態を調べるために、1H-NMR測定を行った。目的の温度領域で十分な強度のNMR信号を得られることを確認することができた。H24年度の研究に向けて十分な準備ができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
強磁場の磁場誘起超伝導領域の研究をより深く行うため、H24年度もGHMFLの実験を予定している。磁場誘起超伝導が得られる磁場を印可しての測定を行う。また、応募者の研究グループの9T磁石での測定と相補的に測定を行う。加えて、新たに着目すべき問題として、広いNMR線幅の起源の解明、があげられる。9T磁石を用いての温度依存の測定、NMRスペクトルの磁場方位依存を丁寧に測定することにより明らかにする予定である。また、Fe塩の低磁場領域で1H-NMRの緩和率の温度依存を詳細に測定することにより、BETSπ電子とFeサイトのdスピン状態の微視的な解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度は温度コントローラの購入の予定であったが、既存の装置を改造することにより、本研究を行うに十分な性能が得られたので予定を変更し、購入を見合わせた。その分はほぼそのままH24年度分へと繰り越し、実験室での超伝導磁石の運用に必要な寒剤の購入に充てる。それ以外はほぼ研究計画調書に記載した通りに使用する予定である。
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