研究課題/領域番号 |
23540423
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
開 康一 学習院大学, 理学部, 助教 (00306523)
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キーワード | 磁場誘起超伝導 / NMR / 金属絶縁体転移 |
研究概要 |
l-(BETS)2(FeGa)Cl4の系のFeとGaの混晶比が仕込みのそれとほぼ対応していることを確認した試料を用いて20%Ga置換系のSe-NMRを、より詳細に測定を行った。加えて、Fe100%系の低磁場で観測される金属絶縁体転移でのスピンダイナミクスを調べることを目的として単結晶試料を用いてSe-NMRの温度依存の測定を行った。以下、それぞれ概要を述べる。 Ga置換系:H23、24年度の実験室環境での低磁場、および強磁場施設でのSe-NMR吸収線の温度依存の結果を踏まえ、高温域で磁場の角度変化の測定を行った。温度が高いため信号強度が弱いが低温でNMR線幅が広がることによる解析精度の低下を避けることができ、解析の精度が向上した。d局在スピンと伝導電子系との交換相互作用は電気抵抗の測定から報告されている値とほぼ対応することが確認できた。このことは「希釈された」Feスピンが「結晶内を遍歴する」伝導電子を分極させて負の内部磁場を作り出しているとのモデルを支持するものである。また、H24年度の研究で、NMR線幅の角度依存がナイトシフトのそれと対応していることからGa置換系においてもBETSの二次元層内に電荷不均化があり、クーロン相関がある程度強いことを明らかにした。H25年度はデータを強化し、電荷不均化について定量的な値を得ることに成功した。 Fe 100%系: H24年度の1H-NMRの結果では定量的な議論をするに十分な情報を得ることが出来なかったため、Se-NMRを低磁場で行なった。試料サイズに合わせた微小なコイルでSe-NMRを低磁場で行なう事の技術的な困難は新たにそれ用のNMRプローブを作成する事で解決し、5T以下でのSe-NMRの信号観測に成功した。反強磁性転移温度で線幅の急激な増大と信号強度の現象が観測され、BETS分子が反強磁性に寄与している事を示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GaでFeサイトを置換したGa置換系でp-d相互作用がGaのドーピング量に従って「平均的に」小さくなる事の微視的確認ができた事は大きな成果であると言える。また、Fe100%系において、金属絶縁体転移が観測される低磁場でSe-NMRの信号を得る事に成功した事の意義は大きい。電子系との結合が大きいSe核での実験することにより、より詳細な情報を得ることができ、金属絶縁体転移温度以下での電子スピンのダイナミクスを明らかにできることが期待できる。 H24年度はNMR実験に必要不可欠なヘリウムガスの入手が困難になったこともあり、実験計画が大幅に狂った。また、H25年度は実験室のある建物の改修工事のため、NMR実験を行なうことができない時期があり、実験計画の変更の必要があった。この間、解析を進め、また、新たな同位体置換の試料の入手に時間を使うことにした。また、国内の共同研究機関を利用し、実験を進める事で実験ができないことによる影響を小さく押さえることができたが、予定していた実験が実施できなかった分、研究の計画に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
Fe100%系での低磁場領域の金属絶縁体転移温度でのスピンダイナミクスの微視的観測を行う。すなわち、Se-NMRでのNMRスペクトルと緩和時間の解析からこの系の反強磁性絶縁体状態を理解することを目指す。H25年度後半に13Cに同位体置換されたBETS試料の合成に成功した。NMR活性のSe同位体は7%と少量であるため、測定が困難であったが、ほぼ100%近く同位体置換されている13C-BETS試料を測定に用いる事でより、精度の高い実験と解析が期待できる。実際、当該試料でSe-NMRに比して圧倒的に大きな信号強度で一部の測定を行なっており、このまま進める事で反強磁性状態でのスピンダイナミクスにおけるpスピンとdスピンの役割を明らかにする。低磁場、および強磁場での反強磁性転移、超伝導転移付近での電子状態を明らかにし、研究を総括する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24から25年度に発生した世界的なヘリウム不足と研究室のある建物の改装工事が重なり、H25年度の実験計画に狂いが生じた。そのため予定していたSe-NMR実験の内のいくつかを行なうことが出来ずに未使用額が発生した。しかし、低温実験を行うことが出来ない期間に試料の調達、すなわち研究の飛躍的な促進が期待できる13C同位体置換試料の入手ができたため、研究期間を延長する申請を行ない、認められたため。 H25年度の、ヘリウムを用いたNMR実験ができない間に解析作業を進め、また、測定、および解析に有利な13C同位体置換試料を入手できたため、当該試料を用いた13C-NMRを行なう。この測定と解析の結果を日本物理学会と7月にフィンランドでの開催が決まっている合成金属の国際会議で報告する予定である。また、13C-NMR測定の結果も含めて研究を総括する。
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