l-(BETS)2FeCl4の13C置換体単結晶試料の提供を受け、これを用いてNMR測定を行った。13C体試料を使うことにより、それまで難しかった低磁場領域の測定、緩和率の測定が行えるようになった。 金属絶縁体転移が観測される低磁場領域で温度低下に伴い13C-NMR吸収線は低周波数側にシフトすることが観測された。NMR吸収線の温度依存の解析から得られた伝導電子とFe局在スピンの交換相互作用は約-30Tと見積もられ、磁場誘起超伝導を示す高磁場領域で77SeNMRから得られた値と一致することが明らかになった。また、電子スピンの動的挙動を明らかにすることを目的として100K以下の温度域でNMR緩和率 (1/T1) の測定を行った。スピン揺らぎに対応する1/T1Tは約50Kから増大し、約7Kで反強磁性磁気秩序に特徴的な極大を示し、より低温で急速に減少した。このことは金属絶縁体転移温度より十分高温から反強磁性による磁気揺らぎが発達し始めていることを示し、この系のpi伝導電子スピン間に反強磁性的相互作用が強く働いていることを示唆した結果である。
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