研究課題/領域番号 |
23540426
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
米満 賢治 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 准教授 (60270823)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 有機導体 / 電荷秩序 / フラストレーション / 非線形伝導 / 集積型金属錯体 / 電荷分離 / 電子格子相互作用 / 光誘起相転移 |
研究概要 |
三角格子を持つ擬2次元有機導体では、フェルミ準位付近の状態密度を大きく減らして安定化に寄与する二倍周期の電荷秩序と、三角格子に由来する三倍周期の電荷秩序が共存することがある。これらの起源は異なり、外場に対して一般に異なる応答をする。θ型有機塩でのサイリスタ現象の発見以来、非線形伝導に対する電荷秩序の効果が興味を持たれている。有限バイアス下の電子格子状態を、非平衡グリーン関数を使って求めた。θ型塩は高温金属相では対称性の高い結晶構造をもつために、電荷がフラストレートした状態にある。低温でストライプ型2倍周期の電荷秩序を安定化する際、正孔密度の増減に対応して異なる向きに分子面が回転する。この格子変位が維持される限り、2倍周期の電荷秩序が残り、電流は流れにくい。十分に大きなバイアスの下で2倍周期由来の構造因子が消えると、この格子変位も消える。しかし三倍周期由来の構造因子は電流が大きく流れても生き残り、実験で観測された状況を再現することが分かった。光誘起相転移は非平衡環境で進むので、過渡的な電子状態と振動状態の関係は平衡におけるものと異なっている。平衡状態において、分子内のC=C伸縮振動の周波数は、分子の価数によって変化する。その関係と過渡的な周波数から期待される価数と、実際の分子の価数は一般にずれる。このずれ具合を解析すれば、光照射により吸収されたエネルギーの伝達経路について知見を得られる。そのため、分子内の軌道自由度、分子間の電荷移動自由度、分子振動および格子振動を取り入れた遍歴電子模型を採用する。電子格子相互作用が効いて電荷分離相になる Et2Me2Sb[Pd(dmit)2]2 を考える。ハートリー・フォック近似の範囲内で、電荷秩序および分子振動と格子振動の周波数を再現した。分子および二量体がもつ対称性のために、それぞれの振動は分子内電子励起と選択的に結合している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子性導体の非線形現象における階層間結合の効果を調べるためには、まず階層間結合が重要な対象物質を選ぶこと、そしてその分子内自由度と分子間自由度の相互作用を使って電子格子状態を理論的に再現することが重要である。光誘起相転移を示す金属錯体 Et2Me2Sb[Pd(dmit)2]2 については順調に進んでいる。非線形伝導を示すθ型有機塩については、既に成果をまとめ、電子格子相互作用がより重要な役割を示す他の有機塩についての基礎を形成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
光誘起相転移を示す金属錯体 Et2Me2Sb[Pd(dmit)2]2 については平衡状態を記述するために既に得られたパラメタを用い、非平衡時間発展を計算し、実験結果と比較する。非線形伝導を示す有機塩として \beta-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6 を対象に、平衡状態を記述するパラメタを求める。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き計算機やソフトウェアを整備しつつ、プログラムの開発と数値計算を進める。打ち合わせや成果発表のために出張する際に、実験結果との比較検討をそれぞれの実験研究者と行う。
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