本研究の最終年度である平成25年度には、本研究の最終目的であるCVD成長単層グラフェンの高精度なサイクロトロン共鳴の測定およびその詳細な解析を行った。特にグラフェンの電子状態に対する支持基板の影響を調べるため、GaAs基板やSi基板、ガラス基板などの異なる基板に転写したCVD成長単層グラフェンに関してサイクロトロン共鳴測定を行った。サンプルは海外共同研究者であるDr. K.-S.An (Korea Research Institute of Chemical Technology、韓国)により成長されたものを用いた。その結果、グラフェンのバンド速度が支持基板により大きく異なることがわかった。他の研究グループにより劈開単層グラフェンのバンド速度がSiC上成長多層グラフェンのそれより10%程度増大することが報告されているが、本研究結果と関連があると考えている。また今回、最低ランダウ準位間遷移(n=0 => 1)の吸収線は2成分からなり磁場とともに吸収強度比が変化する振る舞いが観測された。これはサイクロトロン共鳴のフィリングファクタ依存に起因すると考えられ、他グループの報告とよく合っている。本研究開始時に比べグラフェンCVD成長技術が急速に向上し最近では高品質なCVD成長グラフェンが市販品として得られるので、市販サンプルにおけるサイクロトロン共鳴測定も試みた。今回測定した試料のキャリア濃度が濃くフェルミレベルがディラック点より十分に離れているため、ディラックフェルミオンに特徴的な√Bに比例するサイクロトロン共鳴ではなく、“バルク”的キャリアによるサイクロトロン共鳴が観測された。 既存の強磁場中分光装置の改良に関しては計画通り検出器部分をサンプル直下に設置するための検出器ユニットを製作し、低温強磁場中での動作確認を行い、15Tまでの磁場中で遠赤外光検出に成功した。
|