研究課題/領域番号 |
23540431
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
長壁 豊隆 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究主幹 (80354900)
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キーワード | 高圧力 / 中性子回折 / 電気抵抗 / 磁性 / 伝導 / 強相関電子系 / 臨界領域 |
研究概要 |
強相関4f電子系化合物においてスピンや軌道などの自由度が競合する臨界領域を低温高圧力下で生成し、この領域で発現が期待される新奇物性を中性子回折(磁性)と電気抵抗測定(伝導)の同時測定法により研究する。この目的のため、中性子回折用ハイブリッドアンビル式高圧力セル(HAC)を用いた電気抵抗測定を実現する。今年度は、アンビル式高圧力セルにおける電気抵抗測定技術を習得するため、ある程度手法が確立しているダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて、強相関4f電子系化合物YbInCu4について高圧力下電気抵抗測定を行った。この中で、ガスケット中央の試料室から電気抵抗測定用の信号線を取り出す新たな手法として、厚さ20ミクロンの短冊状金箔4枚をガスケットの表面に張り、試料からの4本の金線をこれに接続した結果、アンビルキュレットのエッジでの断線をある程度防ぐことが出来た。同方法によりYbInCu4について低温下で1.4GPaまでの電気抵抗測定に成功した。加圧とともに価数転移温度が降下し、体積膨張を伴う価数転移を圧力で制御できることを確認した。また、DACでは通常、信号用金線と金属ガスケットとの間の絶縁方法として、エポキシ系接着剤で固めたアルミナ粉の絶縁層をガスケット上に形成するが、これは多くの手間と時間を要する。中性子回折実験はマシンタイムによる時間の制約があるため、同時測定を行う上で絶縁方法を単純化する必要がある。HACでは中性子透過率の高いAlガスケットを用いるが、このAlに事前に陽極酸化皮膜を形成することで絶縁層として機能させることを考案した。今年度、通常使用するJIS2017番Alに対して陽極酸化皮膜を形成し性能を確認したが、皮膜自体が平均10μm程度にしかならず、加圧により皮膜が破れることが判った。これはJIS2017番Alに含まれるCuが皮膜形成を妨げる事による。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、研究用原子炉JRR-3に設置された中性子回折装置を使用する計画となっている。平成23年3月11日に発生した東日本大震災によるJRR-3に対する直接的、及び間接的な影響が予想より長期間に及んでおり、平成24年度中もJRR-3の稼働がなかった。そのため、研究の目的に記載した中性子回折と電気抵抗の同時測定の実現が現時点では困難な状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
技術開発を継続して行い、10GPa級の高圧力下、及び1K程度の低温下でアンビル式高圧発生装置を用いて電気抵抗を測定する技術を確立する。DACで採用した方法によって試料室から断線せずに信号線を取り出せる様になった。平成25年度は、この方法を中性子回折用ハイブリッドアンビルセルに応用する。また、アルミ合金ガスケットの絶縁に関しては、Cuを殆ど含まずにJIS2017番を上回る硬度を持つJIS7075番のアルミ合金をガスケットとして採用し、ガスケットとしての性能、また、陽極酸化皮膜の形成具合と絶縁性能を確認する。同ガスケットにより絶縁方法を確立できた場合、充填スクッテルダイト化合物PrFe4P12について低温高圧力下での電気抵抗測定を試みる。この物質は、高圧力下で金属-絶縁体転移を引き起こすことが知られており、電気抵抗値の変化が大きいために試験測定に向いている。JRR-3が再稼働した場合は、同物質について電気抵抗と中性子磁気回折の同時測定を実施し、臨界圧力以上で現れる反強磁性相の安定性と伝導の関係を調べる。一方、現時点ではJRR- 3の中性子回折装置を使用することを念頭に準備を進めているが、仮に本研究期間中にJRR-3が再稼働しない事が明らかとなった場合、 現在、J-PARCにおいてコミッショニング中である微小単結晶中性子回折装置SENJUを使用することを検討する。但し、今年度に行ったハイブリッドアンビルセルを用いたテスト測定の結果、特定の逆格子点強度を測定する場合、JRR-3の中性子回折装置に比べてシグナル強度が1/1000以下と非常に弱いことが判明したため、試料容積の拡大や高精度のバックグラウンド対策が必須となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、ハイブリッドアンビルセルを用いた高圧力下電気抵抗測定技術の開発に必要な消耗品を購入する。主に、アンビル一式、ガスケット材、高圧セル部品、リード線(金線)、金ペースト等となる。JRR-3の稼働状況に依存するが、平成25年度に稼働した場合は、計2、3回の同時測定実験を予定しているので、液体Heが200リットル程度必要となる。さらに、国内学会2件程度の参加を予定しており、これらに参加するための旅費が必要となる。
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