研究実績の概要 |
本研究では、強相関4f電子系化合物においてスピンや軌道などの自由度が競合する臨界領域を低温高圧力下で生成し、この領域で発現が期待される新奇物性を中性子回折(磁性)と電気抵抗測定(伝導)の同時測定法により研究する。この目的のため、中性子回折用ハイブリッドアンビル式高圧力セル(HAC)を用いた電気抵抗測定を実現することが大きな目標となる。 今年度は、前年度に新開発したミタニライト被膜によるガスケット絶縁手法を用いて、充填スクッテルダイト化合物PrFe4P12について高圧力下電気抵抗の試験測定を行った。この物質は常圧下では金属状態であり、約6.5 Kで(1, 0, 0)構造の非磁性秩序相に相転移する。この物質を加圧すると転移が抑制され、約2.5 GPaの臨界圧力(以下、Pc)以上の低温下で絶縁体となることが知られている。一方、HACを用いた低温高圧下単結晶中性子回折実験により、Pc以上でPr当たり2.0μBの(1, 0, 0)構造の反強磁性相が現れることが明らかになっている。報告者等の実験の結果、加圧と共に電気抵抗に見られる非磁性転移が抑制され、3.8 GPaでは10 K付近から電気抵抗が急激に上昇する様子が明瞭に観測された。同時測定ではないが、この電気抵抗測定における加圧条件は上記のHACを用いた高圧下中性子回折実験と完全に同一であり、反強磁性相転移温度と絶縁体への転移温度が一致したことから、絶縁体転移が反強磁性秩序に起因していることを明らかになった。なお、この測定では、加圧したHACを室温から1 K 程度まで繰り返し温度変化させているが、皮膜の亀裂や剥がれは生じずに絶縁状態を維持していたので、ミタニライト絶縁被膜ガスケットは、熱膨張・収縮のサイクルにも強いことを確認できた。
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