研究課題/領域番号 |
23540432
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
内藤 俊雄 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (20227713)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | フラクタル次元 / アルキルケテンダイマー / 反強磁性体 / ネール温度 |
研究概要 |
本研究の具体的な目的は、(研究期間全体の3年間で)バルク(D = 3)の試料とフラクタル次元(D)を落とした試料(2 < D < 3)とを対比し、磁性が次元とともにどう変わっていくのかを磁化曲線や磁化率測定といった実験データとして提示することであった。そこで研究の初年度にあたるH23年度は、D = 2-3の試料作製と磁化率測定を行った。具体的には、三次元の立体として存在する磁性体(酸化コバルトCoOの粉末)と蝋の一種であるアルキルケテンダイマー(AKD)の粉末とを種々の比で混合することで、磁性体をフラクタル構造体に変えた。次にそれらの混合試料の磁化率の温度依存性を測定し、反強磁性転移温度T_Nが系統的に変わっていくことを見出した。特に、D = 2-3の範囲では、D~2.8付近でT_Nが明確な極大を取るという、全く予想外で重要な事実を発見した。これは多少格子欠陥を導入した方が、磁気秩序を起こす転移温度が高くなることを意味する。AKD自体はスピンを持たず、CoOとも相互作用しない。そこで、磁性がフラクタル次元の低下に伴って、なぜそのように変わっていくかを明らかにするため、試料の表面に存在するスピンの割合(R)がフラクタル次元(D)とともにどう変わっていくかを計算した。その結果、RとDとの関係式は、T_NとDとの実測された関係に半定量的に一致した。これによって、フラクタル次元とともに磁気転移温度が確かに変わっていき、それは主に表面(試料内部に隠れたAKDとCoOとの界面も含む)のスピン間の相互作用が重要な働きをしていることを示せた。記憶媒体として用いる際重要な(反)強磁性転移温度を制御したり、薄膜や微粒子などの磁性を統一的に理解することに繋がっていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的(研究計画)はフラクタル次元Dが変わると、磁性がどう変わるか(変わらないか)を実験事実として確立(発見)することであった。実際には上述の通り、実験事実として確立しただけでなく、その機構(主な原因)までを半定量的に説明できたという意味では、「当初の計画以上に進展している」。その半面、最新の一番重要な結果を含んだ論文がこの報告の時点で受理されるところまでは到達出来なかったので、その分を考慮すると「おおむね順調に進展している」という評価になると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、上述の通り、フラクタル磁性体の磁化率の温度依存性がフラクタル次元Dの変化とともに系統的に変化していく様子が、再現性良く観測された。今年度はそのうち、転移温度の変化をDと関連させて説明した。今後の研究計画(次なる目標)は、当初の予定通り、転移温度以外も含めたフラクタル磁性体の磁化率の温度依存性が、なぜフラクタル次元Dの変化とともにそのように変わっていくかを説明することである。そのための交流磁化率測定に必要な装置の利用を(昨年度末に)全国共同利用の機関に申請し、先ごろ採択された。また比熱の測定も別の研究室に共同研究として進めることで了承を得ている。このように今後の研究推進のための体制や準備は着々と進められているので、当初の計画(研究計画調書)に従って更に本研究を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費としては、今年度同様、試薬や理化学消耗品の購入が必要となる。旅費としては、上述の比熱測定や交流磁化率測定のため、北海道大学などいくつかの研究機関に出張して測定を行うための旅費や、研究成果発表のための出張旅費がある。
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