研究課題/領域番号 |
23540432
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
内藤 俊雄 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (20227713)
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キーワード | フラクタル次元 / 転移温度 / 磁気秩序 / 酸化コバルト / アルキルケテンダイマー |
研究概要 |
磁気秩序や電気伝導など重要な電子物性の多くは協同現象と呼ばれ、その構成成分(化学種)のみならずそれらの配列、すなわち構造の詳細に依存して大きく性質が変わる。固体は格子と電子系からなるが、このうち電子構造の(低)次元性に関しては古くから研究がなされ、電子構造の次元が異なると定性的に異なる諸性質が明らかにされてきた。一方、近年のナノテクノロジーの進展により薄膜(二次元)や細線(一次元)、量子ドット(零次元)などの研究から、試料の格子の次元によってもこうした物性が変化することが、類推的にあるいは経験的に認知されてきた。しかし現実に我々も試料も三次元の世界に存在している以上、格子の次元を任意にしかも系統的に変えることは通常不可能で、こうした問題を実験的に検証した例はなかった。 ところが最近我々のグループは蝋の一種であるアルキルケテンダイマー(AKD)を混ぜることで、制御されたフラクタル次元D(D = 2.5-3)を持った試料を実現できることを発見した。Dは与えられた図形内部の空洞部分の体積や分布を定量的、統一的に評価した指標で、粗っぽく言えば幾何学的な(ユークリッド)次元という概念を非整数にまで拡張したものに相当する。今回の共同研究では基本的な性質が良くわかっている磁性体の磁化率を測定することで、磁気秩序が生じる様子とDとの関係を直接的、定量的に調べた。具体的には、室温付近に転移温度を持ち、各種半導体デバイスとして実用化されている酸化コバルト(II)を例にとって、フラクタル次元Dと反強磁性転移温度TNの定量的関係を調べた。申請者らの独自の方法でフラクタル立体にした粉末試料の静磁化率および交流磁化率を計測し、なぜDの低下に従って観測されたようにTNが変わるのかを磁気的相互作用の観点から考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書には次の2点を本研究の目標として掲げた。(ア)試料とした酸化コバルトの磁気秩序化の温度(反強磁性転移温度TN)以外に三次元(D = 3)の場合とは異なった磁気的挙動はないか、(イ)D = 2.5 前後のデータ点(磁化率の温度依存性)の補強。そして後に述べるよう、ほぼこれらの目的を完遂(達成度~100 %)できた。それぞれの結果(わかったこと)を記す。(ア)TN 以外に温度依存性に異常が現れる点がいくつか見つかった。これらはTN(約300 K)より十分低温(およそ20 K以下)で現れ、D = 3の試料では観測されない。通常の三次元(D = 3)の場合と挙動が異なる理由として、今回得られた実験事実から推定される磁気構造に基づき定性的な説明を行う段階まで達した。(イ)申請書の段階では未知であった、TNの複雑なD依存性を発見した。これは観測されたTNの変化の原因として様々な要因が考えられる中で、その直接の、あるいは主な原因を次元Dに結び付ける重要な発見である。簡単なモデルを用いた理論計算から、観測されたTNの挙動(次元に伴う変化)を半定量的に説明できた。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、3次元(D=3)の試料とそれ以外の試料(2.5<D<3)とで定性的に異なる磁気的挙動が見られたことは興味深い。具体的には磁化率の温度依存性において、3次元の試料には見られなかった異常な挙動が複数の温度で観測された。この実験結果は再現性が良いので何か本質的な挙動である可能性がある。しかし本質的挙動だとしても、自明な既知の現象で説明がつく可能性もある。その一つが格子が乱れたスピン系にしばしばみられるスピングラスである。そこでスピングラスかどうかが端的に判断できる実験として、交流磁化率を測定した。その結果、スピングラスの可能性は否定された。そこで次なる段階として、磁気的相転移があるかどうかを調べることにした。それには比熱の測定が一般的である。現在比熱を測定中で、それにより各異常を示した温度で何が起こっているか知見が得られることを期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
予想以上に実験がはかどったことと、交流磁化率の測定結果が予想と異なり更に深く追求しないでよくなったことから、14万円ほど予算が残った。これは次年度に使用する。比熱の測定は北海道大学の装置で行う。そのための旅費と試料の調整や測定に必要な消耗品に用いる。
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