研究課題
磁性や伝導性は不対電子に起因する性質で、不対電子間の相互作用の影響を強く受けるため、試料の構造によって敏感に変わる。試料全体の形状と試料内に存在する空洞の分布を端的に数値化したのがフラクタル次元Dで、無理数も含め、0から3までのいろいろな数を取る。Dが非整数になる物体は雲や海岸線など自然界に多数存在するが、実験的に実現する方法が知られておらず、長い間主に数学や理論物理の研究対象であった。本申請者を含む研究グループはアルキルケテンダイマー(AKD)という蝋の一種を乳鉢で混ぜ合わせるだけで与えられた試料を望みのフラクタル次元にする可能性を以前から検討していた。そこでそうした技術を本研究によって確立し、Dの磁性や伝導性への影響を定量的に調べた。この3年間で研究はほぼ計画通り進み、酸化コバルトの反強磁性転移温度T_NとDとの関係、および銅酸化物高温超伝導体YBCOの超伝導転移温度T_C、臨界電流密度J_C、臨界磁場H_CのそれぞれとDとの関係を測定した。従来の通念から考えるとT_NはDと共に単調に指数関数的に低下すると予想されたが、実際のT_N vs DはD~2.8でD=3の場合より2.4%上昇し、極大を取った。この極値を取るDはパーコレーション理論とも矛盾しない。簡単な計算によりT_NをDの関数として表し、半定量的に実験結果を再現できた。一方超伝導に対するDの影響は、このような反強磁性転移への影響ともまた異なっていた。T_CやJ_CはDの影響を受けなかった。これはAKDを乳鉢で混ぜ込んだだけでは、T_CやJ_Cを決定しているYBCOのミクロな構造は変わらないためだと説明された。一方H_CはDと共に40%程度増減した。この結果はDと共に試料中の空洞部分が変わることに着目して説明された。
すべて 2013 その他
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The European Physical Journal B
巻: 86 ページ: 1-9
10.1140/epjb/e2013-40353-3
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