研究課題/領域番号 |
23540435
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
中川 尚子 茨城大学, 理学部, 准教授 (60311586)
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キーワード | 非平衡 / 熱力学的操作 / 拡張クラウジウス等式 / メゾスコピック / Jarzynski等式 / 隠れた自由度 |
研究概要 |
平成25年度は、定常系に有限時間で完了する外部操作を施したときに得られる非定常状態について、研究成果を得た。通常知られている平衡熱力学の熱力学関係式は、準静極限(操作速度無限小の極限)について成り立つ関係式であり、我々が提案している非平衡定常系の拡張クラウジウス等式も準静極限で成り立つ関係式である。一方で、Jarzynski等式として知られる関係式は、操作速度の大小に関わらず、仕事と自由エネルギーの間に成り立つ等式関係を与えており、一過的な非定常状態についても熱力学的議論への門戸を開いている。しかし、非定常状態固有の熱力学量を提案する段階には至っておらず、その点で不満が残っていた。Sivak and Crooks (PRL 108,150601 (2011))は、非定常状態に拡張した自由エネルギーを定義し、遅い外部操作で得られる非定常状態には熱力学的仕事との関係式が得られることを報告した。我々は、この関係式は「有限速度操作によって生じる不可逆散逸」を「非平衡定常系での非平衡駆動力」と等価と見なすことにより、非平衡定常系で我々が提案している「拡張クラウジウス等式」と同じように捉えられること、完全に相似な方法論で簡単に導出できることを示した。Sivak and Crooksは一部の系に限って自由エネルギーの拡張と関係式の導出を行っていたが、拡張クラウジウス等式と同時に我々が提案した「対称化シャノンエントロピー」を用いることで、非定常系の熱力学関係式をより広い系に成立する関係式として提案できることも示すことができた。この研究を通して、弱い非平衡系には、定常か非定常かを問わず、熱力学的枠組みが定義できることが明らかになり、非平衡系の熱力学構造に統一的観点を持ち込む布石を打つことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画2年目の平成24年度は、課題2および3について研究を進展させた。 課題2の進展については、すでに研究実績欄に記載したとおりで、当初の研究計画を上回る成果を得ている。また、研究成果の公表以前の段階ではあるが、課題3については研究計画書に記載した内容に沿って研究を進めており、成果が蓄積されてきている。課題1については、若干の遅れが出ているが、課題3と表裏をなす内容であるため、考察は課題3と同時に進めている。深刻な遅れが出ている状況ではない。
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今後の研究の推進方策 |
23年度に引き続き、24年度も原発事故に伴う電力不足という問題があり、夏を終えるまでは数値計算を中心に添える研究を進めることができなかった。秋以降は数値計算を本格化させ、課題3を優先的に進展させている状況にある。引き続き25年度も数値計算を中心に添えた研究を行っていく。 課題3については、24年度に引き続き、「被操作自由度」しか観測できない場合のみかけの熱力学的諸量について、数値計算にもとづく発見的な研究を行う。 課題2については、すでに理論上の成果が得られている。次なる段階は、得られた理論的成果を実際の系への応用へつなげるよう道を拓くことが望まれる。25年度は、比較的扱いやすいモデル系を採用して、数値計算のもと、非平衡系の熱力学的仕事と諸量の関係をデモンストレーションしていく。特に、熱力学系のポンプ能力に関する新しい知見など、応用に繋がりやすいトピックをとりあげ、非平衡定常系の理論研究がもたらした成果を示していくことを念頭に置いている。また、なんらかのモデル系の数値計算によって、非定常系の自由エネルギーと非平衡定常系の自由エネルギーの比較を行い、同じ自由エネルギー値をもつ異なる非平衡状態の比較も行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
東日本大震災による影響で数値計算を軸とする研究を開始するのが予定より遅くなってしまったので、25年度は特に数値計算用のコンピュータを増強させることに主たる予算を割く予定である。旅費等の他の費用については、できるかぎり削減する。
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