研究概要 |
平成24年度は、1)一般の系の加熱を表現する量子演算の構成とそれによって生成される熱力学的過程におけるClausius不等式の破れ、2)重ね合わせの原理と量子力学的Carnotエンジン効率のエンハンスメント、という2つの問題に、主として取り組んだ。1)に関しては、構成した量子演算は一般的であるが、それを特に反強磁性結合をしているスピン系に対して具体的に適用し、Clausius不等式が破れることを見いだした。破れの強さは、エネルギーの離散性の度合いに比例する形をとるが、より重要な点は、この量子演算は対象系と「隠れた環境系」との間の量子エンタングルメントを引きずっているという事実である。この結果は、量子エンタングルメントを中心とする量子効果が、古典的熱力学の基本法則を変更するという予想を支持するものである。この研究は、下記の文献[1]として出版された。2)については、熱浴なしで可逆的に作動する量子Carnotエンジンに関する研究である。熱浴がないため、系のコヒーレンスは完全に保たれる。本研究では、このコヒーレンスを用いて、状態の重ね合わせを考えることにより、量子Carnotエンジンの効率を上げることが出来ることを見いだした。これは、文献[2]として出版された。 なお、上記の2つが本研究課題に直結するものであるが、その他の研究に関して4編の論文を出版する機会があったことを付記する。 [1] S. Abe and Y. Aoyaghi, Int. J. Mod. Phys. B 26, 1241001 (2012). [2] S. Abe and S. Okuyama, Phys. Rev. E 85, 011104 (2012).
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