研究課題/領域番号 |
23540450
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
原田 健自 京都大学, 情報学研究科, 助教 (80303882)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | エンタングルメント繰り込み / テンソルネットワーク / 反強磁性ハイゼンベルグ / 三角格子 / 変分法 / スパイラル / 非整合 |
研究概要 |
空間異方性のある反強磁性ハイゼンベルグモデルの基底状態をエンタングルメント繰り込みを組み込んだテンソルネットワーク変分計算により明らかにした.対象とした系は,鎖間相互作用を持つ反強磁性ハイゼンベルグ鎖の集合であり,有機絶縁体の有効量子スピンモデルである.この系では,強い量子揺らぎと幾何学的フラストレーションのために,量子スピン液体相などのエキゾチックな相の出現が議論されてきた.我々の研究結果より,少なくとも等方的な場合を含む一定領域では,基底状態は長距離磁気秩序を持ち,特にその波数は格子に非整合であるスパイラル相であることがわかった. 本研究でもちいたテンソルネットワークで得られた変分エネルギーは,他手法で得られたエネルギーよりも,空間異方性が弱い領域でより低いことがわかった.ただし,空間異方性が強い領域においても,テンソルサイズを大きくすると系統的にエネルギー値は改善されることもわかった.この結果は,本研究で用いたエンタングルメント繰り込みテンソルネットワークが等方的なエンタングルメント構造を仮定していることと関係している.つまり,空間異方性を強めるとエンタングルメント構造の異方性も強まり,ミスマッチが起きた. 鎖間相互作用定数J2と鎖内相互作用定数J1とした場合,領域 0.7 < J2 / J1 <= 1において,テンソルネットワーク変分法のエネルギーが従来法よりもよく,この領域の基底状態がスパイラル相にあることがわかった.波数は連続的に変化するが,古典的な場合と明らかに異なることもわかった.具体的には,量子ゆらぎが空間異方性の効果を高め,波数の変化が強まる.また,その波数は摂動展開で得られたものとよい一致を示すことがわかった. 基底状態相図の決定等に用いるスケーリング解析の為に,ノンパラメトリックなスケーリング関数を扱うことができるベイズ統計に基づく手法を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,計画の対象としたモデルの一つである空間異方性のある三角格子上の反強磁性ハイゼンベルグモデルの基底状態相図を明らかにできた.一方,国際研究集会等への参加が予定よりも少なかった.さらに,論文の出版が遅れている.また,計算環境の整備も,耐震改修工事の為に遅れた.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画にあげた残りの対象系に関する研究を予定通り進める.そのために,本研究ですでに得られている成果を元に,すでにかなり進んでいる予備的研究をより大規模なものに展開することで,従来の研究を越える成果を目指す. 本研究で用いたテンソルネットワークスキームに関連する計算方法に関する理論的研究の進展を取り入れる.特に,モンテカルロ法とのカップリングは計算コストの大幅な低下をもたらす可能性があり,積極的に取り組んでいく.
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次年度の研究費の使用計画 |
国際研究集会に複数回(それぞれ1週間程度)参加し,成果発表と研究交流を活発に行うために,研究費を用いる. 計算コードの開発環境の整備を,最新のハードウェアやソフトウェア状況を見ながら行う.具体的には計算サーバー,及び,コンパイラ等の導入を研究費を用いて行う.
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