本研究課題の最終年度として、量子モンテカルロ(QMC)法、フラグメント分子軌道(FMO)法、および関連した多体論的手法それぞれの整備を行い、また、それらを組み合わせて水の物性シミュレーションを実行した。まず、QMC法に関しては、昨年度論文投稿していた、水の電子状態を精密に計算した結果を報告した「Variational Quantum Monte Carlo with Inclusion of Orbital Correlations」がJournal of the Physical Society of Japanに掲載された。また、FMO法に関してもいくつかの論文発表・学会発表を行い、特に、レビュー論文「Electron-Correlated Fragment-Molecular-Orbital Calculations for Biomolecular and Nano Systems」をPhysical Chemistry Chemical Physics誌に発表し、この中でFMO法の水系への応用事例をまとめた。さらに、液体状態にある水の分子間相関を積分方程式の手法で解析する研究にも進展があり、実験結果を良く再現できる動径分布関数が計算でき、その成果を2編の論文(Chem. Phys. Lett.およびChem. Phys.)に発表した。研究プロジェクトの最終目標の一つである水の相構造の解明にまでは残念ながら現時点では到達できていないが、これら一連の理論的研究を通して、シミュレーションの手法による水系の第一原理的な解析の基盤が整った。
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