研究課題/領域番号 |
23540452
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
狐崎 創 奈良女子大学, 大学院人間文化研究科, 准教授 (00301284)
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研究分担者 |
中原 明生 日本大学, 理工学部, 准教授 (60297778)
大信田 丈志 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50294343)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 乾燥破壊 / 亀裂成長速度 / 塑性変形 / ペーストの記憶効果 / レオロジー / 粉体の力学 / パターン形成 / 非線形動力学 |
研究概要 |
本研究は乾燥によって液体的状態から固体的状態へと変化する過程で生じるペーストの破壊現象のメカニズムを物性測定と理論を通して解明することを目的としている。初年度は主として対象となるペーストの種類を増やし、引張圧縮試験機を購入して物性測定の方法を確立することを計画していたが、引張試験機の納品が遅れたため物性測定は準備段階である。代わりに次年度以降に予定していた乾燥過程における亀裂の形成に関する理論的研究を優先して進めた。 乾燥亀裂においては、破壊は蒸発によるエネルギーで駆動され乾燥と同時に進行するため、破壊力学のエネルギー論の適用方法自体が明確ではない。そこで非線形弾性格子上でインベージョンパーコレーションを行い、凝集力を持たない粉体系の乾燥過程を数値計算を用いて調べた。その結果、乾燥を伴う亀裂成長が、体積弾性率が小さく剛性が大きい条件で現れることを明かにし、Griffith criterion を適用する際の修正を提案した(物理学会で発表)。 実験では炭酸カルシウム、塩を入れた炭酸カルシウム及び炭酸水酸化マグネシウムのペーストを用い、乾燥破壊がいずれも塑性限界付近にあることを分担者の中原らによる降伏応力の測定データと比較して確認し、亀裂速度の測定を行った(日大研究会で発表)。 ペーストの記憶効果に関しては分担者を中心に粒子間の相互作用との関連についての成果が報告され、板バネ等を用いた応力測定とその理論的考察が行われた(分担者により論文、学会等で発表済)。また、ゲルの破壊に関する日印二国間共同研究のプロジェクトとの共催の形で、海外の研究者をむかえて奈良女子大学で破壊に関する研究会を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の主要なツールである引張圧縮試験機の納品が遅れたため、物性測定がまだ準備段階にある。試験機は当初計画で前期中の納品の予定としたため、交付決定後すぐの7月からメーカーの工場で数回サンプルテストを行い、いくつかの測定方法を試して治具の選定を行った。しかし、交付自体の2ヶ月ほどの遅れに加え、変位の測定精度を上げるための改造に2ヶ月、および仕様詳細の問い合わせ等のやりとりに1ヶ月強の時間を要し、納品が年度末にずれこんだ。このため本年度は納品の遅れが予想された段階で方針を変更し、次年度以降に行う予定であった理論的研究を先に進めた。試験機納品後の2月、3月は、温度調節器等の周辺機器の設計と作成、単純な材料での各種試験を経て、ペーストを用いた測定を開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は乾燥破壊実験によって代表的なペーストの破壊条件・亀裂成長速度を調べ、引張圧縮試験機を使って乾燥過程での弾塑性応答の変化について、定量的なデータを得るとともに、塑性緩和と乾燥過程を考慮した亀裂形成の数理モデルを構築することを目的としている。引張圧縮試験機が本格的に稼動したため、当初の計画に戻り各種ペーストの物性測定をスタートさせる。次年度は、まずゴムなど既知の材料を標準試料として、柔らかい試料の応力特性の測定に最適な手法を検討し、乾燥過程でのペーストの物性の変化を調べる。次に乾燥後期の固体的状態での破壊特性を引張または曲げ試験によって測定する方法、および粘塑性の時間応答の測定方法の開発を目指す。これらの結果を、分担者の中原らとともに並行して進めるレオメータによる流動特性の測定と総合することで、乾燥亀裂の生成と成長過程を理解するための基礎データとする。また記憶効果により乾燥後期の固体状態での応力特性と破壊条件に異方性が生じるかを調べる。一方、亀裂成長速度を調べる乾燥破壊の実験では、対象となるペーストの種類を増やす。澱粉、マイクロガラスビーズ等のペーストの亀裂成長は速度が大きく収縮も小さいために従来の画像解析が困難になる可能性がある。予備実験を重ね、電気的な測定等を検討し新しい手法を試みる。理論では、各種のペーストの亀裂成長のメカニズムに関する統一的な理解を得るための数理モデルの提案と解析を行う。最終的には測定結果と総合してより定量的な検証をすることを目標とする。本研究は分担者が主体となって進めているペーストの記憶効果および塑性流動の理論的解明をめざす各プロジェクト、および電場によるゲルの破壊に関する日印二国間共同研究と互いに補完しながら並行して進める計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定通り研究代表者の直接経費は、実験のためのデジタルカメラ(110千円)、部品・試料代(123千円)および研究打ち合わせ旅費(57千円)、論文投稿費(50千円)に用いる計画である。また分担者2名は旅費、および本研究に関連して各大学で必要な物品費として各80千円を使用する予定である。これからの実験の結果によって、経費の使用内訳は必要に応じて変更する。現段階で想定されるのは、測定方法の開発を通して試験機用の新規の治具やロードセル等を購入する場合、試料としてマイクロガラスビーズ等の比較的高価な材料を多く用いる場合、また試験機の修理や保守の必要が生じた場合である。また、デジタルカメラの購入は従来の亀裂速度測定法をより高精度で行うことを目的としているが、電気的な測定方法などの代替手段が十分に確立した場合は導入をとりやめ、より必要性の高い実験部品の購入に充てる。代表者の旅費は分担者の中原の研究室を訪問してレオメータを用いた測定、研究打ち合わせをするとともに、成果発表のために用いる。また分担者も奈良女子大学での試験機の使用や、研究打ち合わせおよび成果発表のために旅費を用い、相互に交流して研究を進展させる計画である。
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