研究課題/領域番号 |
23540455
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
高橋 公也 九州工業大学, 情報工学研究院, 教授 (70188001)
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研究分担者 |
高見 利也 九州大学, 情報基盤研究開発セン ター, 准教授 (10270472)
小林 泰三 九州大学, 情報基盤研究開発セン ター, 研究員 (20467880)
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キーワード | 流体音 / エアリード楽器 / 移動境界問題 / エッジトーン / 渦音理論 |
研究概要 |
平成24年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1) 分離解法を用いた遠方音場の再現の課題では、分離解法を用いてLighthillの音源分布から遠方音場の再現を目指すために必要な音響ソルバーの開発を行い、単純な音源からの音波は再現されることを確認した。現在、流体ソルバーから音響ソルバーへのマッピング方法を検討中である。 2) 音場と流体場の相互作用の解析の課題では、Howeによって提案された音と流れのエネルギー交換を記述する理論(Howe's energy corollary)を数値計算によって具体的に評価する方法を提案した。そのためには、音場と流体場を分離する方法を開発する必要がある。そこで、音場を近似的に再現する方法を開発し、これと流体場のデータを用いHoweの評価式を計算するアルゴリズムを開発し、楽器モデルよりも計算が容易な流体騒音モデルに適用し、音の発生を示すデータを得ることに成功した。より複雑な楽器モデルでの計算は現在検討中である。また、より精密な計算のために、遠方音場の再現の課題で開発した音響ソルバーを用いて分離された音場を再現することを検討している。 3) 音孔の開閉に伴う音高の変化の再現の課題では、パッドのついた音孔モデルを用いて、パッドと音孔の距離を変えたときの発振特性を再現し、先行研究の実験結果を定性的にではあるが再現することに成功した。音孔近傍では、音波がエッジに衝突することで再び流体現象である渦に変化することが起き、楽器の発振の不安定化や異音の原因となる。流体音と乱流の相互作用の課題で開発したHowe's energy corollaryのアルゴリズムを用いて具体的に音波と流体のエネルギーのやり取りを計算することを検討している。また、前年度開発した移動境界ソルバーを用いて音孔の開閉を再現し、音高が遷移するときの流体と音場の変化の解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、以下の3つの課題、1) 分離解法を用いた遠方音場の再現の課題、2) 流体音と乱流の統計理論の関連の課題、3) 音孔の開閉に伴う音高の変化の再現の課題、を挙げていた。研究実績の概要で述べたように、1)と3)の課題については、当初の予定よりも若干遅れ気味ではあるが、概ね順調に進展している。2) 流体音と乱流の統計理論の関連の課題では、当初、音と流れの相互作用が起きるエネルギースペクトル領域を主な課題とし、Howe's energy corollaryの計算を発展課題としていたが、検討の結果、Howe's energy corollaryを用いた解析を優先した方がより効果的であることが分かり、課題を音場と流体場の相互作用の解析と変更した。その結果、Howeの理論的評価式を計算する方法を開発することに成功し、楽器モデルよりも計算が容易な流体騒音モデルに適用し、音の発生を示すデータを計算することに成功した。 以上の結果より、当初の予定から若干の方向修正はあるが、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の3つの課題、1) 分離解法を用いた遠方音場の再現、2) 音場と流体場の相互作用の解析、3) 音孔の開閉に伴う音高の変化の再現、を継続発展させ、全体として統一的な成果が得られるように努力する。 各課題の研究方針は以下の通りである。1) 分離解法を用いた遠方音場の再現の課題では、Lighthillの音源分布を音響ソルバーにマッピングする方法を開発し、遠方音場の再現を目指す。2) 音場と流体場の相互作用の解析の課題では、音響ソルバーを用いて流体場から分離された音場を再現する方法を開発し、楽器モデルに適用し、Howe's energy corollaryの評価式を数値的に計算し、音と流体の間のエネルギー交換がどの周波数領域で行われているかを解析する。3) 音孔の開閉に伴う音高の変化の再現の課題では、3次元の精密な音孔モデルの計算を行い、先行研究の実験結果との比較検討を行う。Howe's energy corollaryのアルゴリズムを用いて具体的に音波と流体のエネルギーのやり取りを計算し、音孔近傍で発生する渦による異音の解析や楽器の発振の不安定化の原因を解析する。また、これまでに開発した移動境界ソルバーを用いて音孔の開閉を再現し、音高が遷移するときの流体と音場の変化の解析を行う予定である。 以上の課題で得られた成果を統一的に解釈し、国際会議や原著論文などで順次発表していく。予定では、2013年6月に開かれるカナダのモントリオールで開かれる国際会議「The 21st International Congress on Acoustics (ICA2013)」で大学院生の発表を含む4件の発表を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度までの未使用額 458,699円である。 この金額は、主にマルチCPUパソコンの購入費として予定されていたものであるが、九州大学の超並列計算機を用いる方がより効率的であることが分かった。そこで、その分の費用を平成25年度に回し、国際会議などでの成果発表に用いる方がより効率的に経費を使用できると判断した。具体的には、2013年6月に開かれるカナダのモントリオールで開かれる国際会議「The 21st International Congress on Acoustics(ICA2013)」や物理学会での発表に必要な旅費に使用予定である。 平成25年度に支給される研究経費(直接経費80万円)の使用計画は以下の通りである。物品費(25万円):ポスト処理用パソコン及びデータ保存用ハードディスクなどに使用予定。旅費(45万円):大学院生の国際会議発表旅費および国内学会発表旅費などに使用予定。謝金(5万円):データ処理のためのアルバイト雇用費用などに使用予定。その他(5万円):論文投稿料などに使用予定。
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