研究課題/領域番号 |
23540461
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
田中 秋広 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (10354143)
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キーワード | 位相欠陥 / 捩率 / トポロジカル絶縁体 / 弾性理論 / アクシオン項 |
研究概要 |
本課題の応募前は物性分野とのつながりが希薄であった、「物質の重力的応答」に関する研究を実施している。当該年度は、前年度の「トポロジカル絶縁体中に導入された位相欠陥」のもたらす量子効果の研究に基づき、その低エネルギー有効理論の構築に向けた研究を進めた。曲がった時空の観点からは、一般相対論で馴染みの「曲率のある時空」ではなく、「ねじれた(捩率のある)時空」を扱うことに相当する。時間反転対称性を破ったクラスと、時間反転対称なクラスの三次元トポロジカル絶縁体について考察を行った。前者は多数の二次元整数量子ホール系が積層されたものとしてモデル化することができる。欠陥の導入による時空の曲りは、層の各点における変位ベクトルを用いて表現する。このとき、電磁応答の有効理論を標準的な微分展開の方法により求めた結果、欠陥近傍で局所的に「アクシオン型」の作用の形を取ることが分かった。これはTeo-Kaneによる位相欠陥を持つトポロジカル相の分類学の予想と一致する結果と言えるが、対応する有効理論はいままで提出されていなかった。時間反転対称なケースも同様に考察を行った結果、「混合量子異常」型の有効作用を得た。この二つの作用はそれぞれ特徴的な電気磁気交差効果をもたらすことで知られる。今回の結果は欠陥の導入が新たな量子効果をもたらすことを有効作用を通して端的に示している。なお本成果は当該年度のアメリカ物理学会等で発表した他、本報告書作成時点では論文を投稿中であり、今後熱応答や他クラスのトポロジカル相へと拡張する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題応募時には、曲がった時空の効果として曲率を伴うものと捩じれを伴うものの二種類を想定していたが、そのうち前者は採択後、熱的応答の文脈(課題応募時に提案したものとほぼ同じ観点)で他グループによる研究も見られるようになり、本課題では他の研究が未だ存在しない後者の状況を推進することに、分野推進の上で意義が大きいと考えて重点を置いている。その中で、前年度の基礎的な研究(数値計算などに基づく量子効果の検証など)に続いて、当該年度では有効理論(各普遍性クラスに固有の低エネルギー有効作用)に到達できたことは有意の進展であると考えている。さらに、比較的新規なトポロジカル相であるワイル半金属相においても、同様の位相欠陥の有効理論を導き、学会で発表を行ったが、これは位相欠陥とバルクの間の新しいタイプの「バルクエッジ対応」として興味深い。
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今後の研究の推進方策 |
投稿中の論文を含め、トポロジカル相に位相欠陥が入った相の有効作用についての論文を出版する。また、これまで主にトポロジカル絶縁体やワイル半金属について行った解析をトポロジカル超伝導体やボゾン多体系のトポロジカル相へと拡張することにより、トポロジカル相、位相欠陥、トポロジカルな有効作用の関係についての全体像を得たい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の発生理由:(1)共同研究を実施する予定であったポスドクの着任時期が遅れたこと(2)本課題の共同研究を実施するために訪問予定であったドイツ出張が、先方のスケジュールにより次年度に延期となり、これらに係る予算の執行ができなかったため。このため次年度はポスドクと実施している、半金属、トポロジカル超伝導体の位相欠陥に関する成果の発表および、海外出張に使用することを計画している。
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