トポロジカル絶縁体は、相互作用の無いバンド電子系を舞台として予言され、実験的にも発見がなされた。その後、相互作用があり、ボゾン系やスピン系にも適用できる一般化されたトポロジカル絶縁体に相当する、「対称性に保護されたトポロジカル相(SPT相)」の研究が活況を呈している。SPT相の研究は現在までのところ、分類学や幾何学的な特徴付けが中心であり、それが群上のコホモロジー理論など抽象的で高度な数学に立脚するため、提案された物理的な実例はごく限られる。そこで、波動関数の経路積分表示を応用して、トポロジカル項を含む有効作用が基底状態のトポロジカル秩序を決定する様子からSPTを直接同定するという、直観的に分かり易く汎用性の高いスキームの確立を目標の一つに設定した。具体例として、磁場中の一次元量子スピン系の示すスピンギャップ状態(一種の磁気的絶縁体と見なせる)である磁化プラトーが、一定の条件のもとでSPTと同定できることを示した。この経路積分による手法はSenthilとXuの発案によるが、本研究は実際の物理系への最初の適用例と言える。この場の理論的な結果は、エンタングルメントスペクトルの数値計算と、解析的に扱えるモデル波動関数(行列積状態)の解析によりその正しさを確認することにも成功した。以上の成果は高吉氏(物質・材料研究機構)と戸塚氏(京大基研)との共同研究として実施して、Physical Review B誌に発表した。さらに、三次元系への同じスキームの拡張に必要な数学的枠組みを整備して、その概要をKim氏(POSTECH)と共著でInternational Journal of Modern Physics Bの、スカーミオン特集号に招待記事として執筆した。更にこのような系にトポロジカル欠陥を導入して実効的に時空を曲げた場合に生じるトポロジカル秩序についても研究を進めた。
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