研究課題/領域番号 |
23540462
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
冨田 成夫 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (30375406)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 放射線 / イオン誘起核生成 |
研究概要 |
平成23年度は凝縮粒子カウンターの購入、照射チャンバーの作成、および計測系の構築を予定していたが、震災により、使用予定の加速器が被災したため、開発期における加速器の利用を見送り、コロナ放電を用いることにした。本研究の目的は液滴生成におけるイオン誘起核生成と中性での核生成過程を区別し、それぞれの効果を明確にすることである。陽子線によるイオン生成では正負、両極のイオンを発生することから、本計画では照射チャンバーに電場を導入しイオンの再結合を防ぐことによる単極粒子による液滴生成の解明を明らかにする予定であったが、これに対し、コロナ放電では単極のイオンしか生成されないため、コロナ放電を用いたことにより、陽子線そのものの実験はできなくなった半面、単極のイオンしか存在しない明快な条件での実験を行うことができるようになった。 平成23年度は主に、コロナ放電によって生成される液滴粒子のDMA(微分型移動度分析器)を用いた計測系を新たに構築し、現象を把握するための予備データの取得を行った。その結果、従来の陽子線による液滴生成実験の場合と同程度の二酸化硫黄の消費条件での実験を行った場合、陽極によるコロナ放電でも同程度の液滴収量が得られることが分かった。これは液滴生成に関する二酸化硫黄からの生成物の役割の重要性を示すものと考えられる。一方、液滴形成が中性で行われるとするとそれぞれの実験条件では液滴の帯電割合に大きな違いが予想される。我々の予備データでは大きな差異は認められらないことから、液滴生成過程におけるイオンの役割の重要性も予想される。 近年、放射線による液滴生成についての実験では硫酸の形成過程におけるイオンの役割が示唆される結果が多く報告されており、我々の結果はイオンによる硫酸生成と液滴生成過程の関係を解明するために重要なものになると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は凝縮粒子カウンターの購入、照射チャンバーの作成、および計測系の構築を予定していたが、震災により、使用予定の加速器が被災したため、開発期における加速器の利用を見送り、コロナ放電を用いることにした。この計画変更に伴い、平成23年度中に予定していた凝縮粒子カウンターを組み込んだ計測系の構築が次年度に行われる予定である。 平成23年度は主に、コロナ放電によって生成される液滴粒子のDMA(微分型移動度分析器)を用いた計測系を新たに構築し、現象を把握するための予備データの取得を行った。その結果、従来の陽子線による液滴生成実験の場合と同程度の二酸化硫黄の消費条件での実験を行った場合、陽極によるコロナ放電でも同程度の液滴収量が得られることが分かった。これは液滴生成に関する二酸化硫黄からの生成物の役割の重要性を示すものと考えられる。一方、液滴形成が中性で行われるとするとそれぞれの実験条件では液滴の帯電割合に大きな違いが予想される。我々の予備データでは大きな差異は認められらないことから、液滴生成過程におけるイオンの役割の重要性も予想される。 これらの結果はおおよそ予定していた成果に近いものであるが、その実験精度は予定していたものの水準には未だ達しておらず、確定的な議論をする水準にはない。また、上述のように凝縮粒子カウンターの組み込みも完了しておらず、これらの遅れを勘案して、計画よりもやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
加速器の代わりにコロナ放電を用いた実験計画に変更し、DMA(微分型移動度分析器)を用いた帯電液滴の移動度分布測定の実験装置の構築を行った。現時点で計測系の構築はほぼ予定通りにすすんでおり、予備データの取得を行っている。ただし、現時点での実験データは精度に問題があり、イオンの効果を断定的に論じることができない段階であり、精度の向上が望まれる。 今後はまず、実験制度の向上を行う。現段階ではコロナ放電の安定性の向上、試料ガスの混合プロセスの変更、湿度コントロールの改善について検討を行う予定である。実験精度の向上の後、この実験装置を用い、正イオン、および、負イオンでの液滴生成実験、正負、両極イオンのでの(再結合過程を含む)液滴生成実験を行う。それぞれの結果を比較することにより正負イオンそれぞれに特有な役割を明らかにするとともに、再結合によって生成されるラジカルの役割を特定することを目標とする。 また、今年度は上記の実験データ取得と並行して、実験装置への凝縮型粒子カウンターの組み込みを行う。凝縮粒子カウンターを用いることにより、生成された液滴の総量の測定および帯電率の測定を可能にする。これにより、液滴の生成過程とイオンによる帯電の2つの物理過程の議論を分離することが可能となり、絶対値での議論を容易にすることを期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
加速器の代わりにコロナ放電を用いた実験計画に変更し、これによる新たな実験装置の構築を行ったため、予定していたよりは実験の実施回数が少なくなった。このことにより平成23年度は8万円程度の予算を次年度に繰り越すことになったが、この予算は次年度予算での消耗品費(30万円)と合わせて、実験用の試料ガスの購入などの消耗品として使用する予定である。 また、研究結果の系統的な取得とともに成果発表の機会も増えることが予想され、30万円を旅費として使用予定である。
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