研究課題/領域番号 |
23540463
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村尾 美緒 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30322671)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 分散型量子情報処理 / 量子計算 / 量子通信 / エンタングルメント / 量子ネットワーク符号化 |
研究概要 |
本研究は、小規模量子計算機、多体エンタングルメントなどの計算資源と、量子通信路、2体エンタングルメント、古典通信路などの様々な通信ネットワーク資源の組み合わせによって、量子計算と量子通信を同時に実行し、より効率的に分散型量子情報処理を行なう方法を探索するものである。情報処理の非局所性、複雑性、因果関係、並列性の4つの観点から分散型量子情報処理の特徴付けを行うことにより、量子計算ネットワーク符号化のための基礎理論の構築を目指す。 平成23年度は、ボトルネックをもつ通信ネットワークである量子バタフライ通信路における量子計算の実装可能性と、分散型量子情報処理に必要なエンタングルメント資源の解析について研究を行ない、次のような成果を得た。(1)1つの通信路で1量子ビットまたは2ビットのいずれかの送信が可能とする場合では、量子バタフライ通信路では、制御ユニタリ演算のみしか実装することができないことを証明した。(2)通信路の制限を量子通信に限り、古典通信は自由に許す場合には、制御ユニタリ演算より非局所性が大きいクラスの2量子ビット演算の実装が可能であることを証明した。(3)ユニタリ演算のみならず、2つの独立な量子ビット入力からそれぞれの最適クローン状態に近い状態を作成して量子バタフライ通信路を超えて配信する、マルチキャスト量子ネットワーク符号化方法を提案した。(4)2体エンタングルメント資源と局所操作および古典通信のみを用いて、異なる2つのノードで与えられた入力に対して量子計算を行なう場合には、どのような制御ユニタリ演算に対しても1ebitのエンタングルメント資源が必要であることを証明した。(5)量子情報処理の資源となるランダム状態に近い高エンタングルメント状態を、多体相互作用ハミルトニアン動力学におけるランダムサンプリングによって生成するために必要な条件を導出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度の研究計画の主な柱となっていた、量子バタフライ通信路における2量子ビット演算実装可能性については、古典通信を2ビットに制限した場合に得られていた制御ユニタリ演算実装プロトコルの最適性の証明と、この設定では追加資源なしでは制御ユニタリ演算以外の演算は実装できないことの証明に成功した。一方、古典通信に制限を加えない新しいクラスの分散型量子情報処理のためのネットワーク符号化を考察し、非局所的なパラメータを1つしか含まない制御ユニタリ演算にスワップ演算を付加した、より非局所性の高い2量子ビット演算の実装可能性を示すことができた。 もう一つの柱である、量子バタフライ通信路における量子情報の流れと因果性の解析については、量子バタフライ通信路での操作と測定ベース量子計算を対応づける手法を見出し、古典通信に制限を加えない場合については、非局所的なパラメータを2つ含むような新しいクラスの2量子ビット演算の実装可能性を示すことができた。 さらに、量子バタフライ通信路における分散型量子情報処理のためのネットワーク符号化の研究は、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の尾張正樹博士との共同研究に発展し、量子バタフライ通信路におけるマルチキャスト量子ネットワーク符号化方法という新しい方向性の研究に取り組んだ。その結果、2つの量子ビット入力に対して、それぞれの最適クローン演算を量子バタフライ通信路上で同時に実装するプロトコルを見出すことに成功した。また、分散型量子情報処理のためのエンタングルメント理論に関してもいくつかの重要な研究を得ており、全体として当初計画以上の進展があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究で得られた量子バタフライ通信路での操作と測定ベース量子計算を対応づける手法を更に発展させることによって、量子バタフライ通信路における2量子ビットユニタリ演算の非局所性と因果関係の関係を解析し、古典通信に制限を加えない場合には、すべての2量子ビットユニタリ演算が実装可能であるのか、そうではないのかを明らかにする。もし、実装が不可能な2量子ビットユニタリ演算のクラスが存在する場合には、すべての2量子ビットユニタリ演算を実装するために必要な最小の追加資源を解明する。 NTTコミュニケーション科学基礎研究所の尾張正樹博士と加藤豪博士との共同研究により、2量子ビットユニタリ演算のみならず、最適クローン演算に代表されるような、入力量子ビットと出力量子ビットのビット数が必ずしも一致しないアイソメトリー演算の実装可能性を探索する。そして、このようなタイプの量子情報処理における非局所性と因果関係、そして並列性、複雑性の関係を見出す。 これまでの研究はすべてsingle shotで決定論的な計算の実装可能性であったが、漸近論的な立場で、量子バタフライ通信路における量子計算の実装可能性に関する定式化を試みる。特に、量子バタフライ通信路などの制限付ネットワークを介した分散型量子情報処理においては古典通信への制限が大きな働きをすることが判明したので、漸近論的な状況で古典通信の最適化を進めることによって、古典通信の果たす役割を情報論的な立場で定量的に理解することを試みる。 量子通信路、2体エンタングルメント、古典通信路のみならず、多体エンタングルメント、量子非調和性や非局所箱などの資源を通信ネットワークとして用いた際に、どのような分散型量子情報処理が可能であるか、ということを解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
量子バタフライ通信路での操作と測定ベース量子計算を対応づけについては、測定ベース量子計算の専門家であるEdinburgh大学のElham Kashefi博士、University College London のJanet Anders 博士、Heriot-Watt University のErika Anderson 博士、CNRSのDamian Markham博士など、量子非調和性などの研究についてはOxford大学のVlatko Veddral教授など、非局所箱などの研究についてはWien大学のCaslav Brukner教授など、エンタングルメンと理論についてはETHのFernando Brandao博士などと研究交流を行なうことで効果的に研究を進める予定である。このため、研究費は主に旅費として用いる予定である。 物品費については、新しい備品の購入は不要であり、プリンタートナーやプリンター用紙等のなどの消耗品のみを計上する。また、研究補助者1名を雇用することによって、より効率的に研究を進める。
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