本研究は、情報処理の非局所性、複雑性、因果関係、並列性の4つの観点から分散型量子情報処理の特徴付けを行うことにより、量子計算ネットワーク符号化のための基礎理論の構築を目指すものである。 各ノード間の古典通信は自由に許す一方で、量子通信は通信路の容量によって制約を受けるという設定での量子計算ネットワーク符号化の研究に関して、今年度は、2次元格子状に分散するノードが1量子ビットの通信容量を持つ通信路によって結ばれている状況を記述する、クラスターネットワークにおける分散型量子計算の可能性を考察した。そして量子通信路をベル状態と呼ばれる2量子ビット間の最大エンタングル状態で記述される非局所性資源を援用した、局所操作と古典通信(LOCC)で実装できる量子計算と、量子回路モデルとの対応を解析することによって、与えられた非局所性資源のみで実装可能な分散型量子計算のクラスを求めた。その結果、バタフライネットワークとグレイルネットワークという、古典的ネットワーク符号化の基本要素となるネットワークに関して、量子計算ネットワーク符号化によってすべての2量子ビット演算を実装可能であることを示すという、予想を覆す重要な成果を得ることができた。 また、分散型量子情報処理の特別な例として、測定ベース量子計算における非局所性、複雑性、因果性と並列性との関連を、測定の順序関係を記述するgflowと呼ばれる因果関係の観点から解析した。測定ベース量子計算では、非局所性資源であるエンタングルメントの効果によって、量子回路モデルよりも並列性を高めることが可能となることがこれまでにも知られていたが、この非局所性を用いた並列化の機構として、量子回路モデルでは禁じられている因果順序の操作を、非局所性の作用によってある範囲内で行なうことができると解釈できる場合があることを示した。
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