研究課題
高強度レーザーを利用した、空間的には原子の内部構造(サブÅ)、時間的には電子の運動(数フェムト秒からアト秒領域)の超高分解能を持つ分子の反応イメージングについての理論的研究を行っている。レーザー誘起電子顕微鏡法という新しい解析手法を提案し、実験データと理論とデータを比較しながら理論手法の開発を進めている。本研究では、これまでに培われた原子標的についての予備的研究を発展させて理論体系の精密化と拡張を行い、電子状態まで含めたより複雑な分子のダイナミカルな状態遷移を追跡するイメージング方法の確立を目指している。 本年度は、最も基礎的な分子である 水素分子イオン H2+ を扱うための2中心クーロン関数計算の定式化とコード開発を行った。まずは、原子核を固定した模型で電子状態のみを扱い、時間依存シューレディンガー方程式の厳密解法のための計算コードと解析手法の開発を行った。また、レーザー誘起電子顕微鏡法のにおいて重要な役割を果たす、レーザー場によって誘起される再衝突電子の生成過程である、トンネルイオン化についての研究を進めた。このトンネルイオン化について、弱電場極限の定性的理論であるADK理論をこえた、静電場中のSiegert法に基づく漸近理論による定量的厳密理論を構築した。さらに、強電場中の分子の超障壁イオン化を記述する、Siegert-R行列 法という計算手法を開発し、計算コードの開発を行った。これらにより、解析の高精度化が期待される。 また、分子構造決定のための参照データ構築用の分子散乱コードの開発準備を行った。まず、最も簡単な2原子分子について多チャンネル断熱変数離散化-R行列伝播法の定式化と計算コード開発をすすめた。 得られた知見を学術論文として出版した。
2: おおむね順調に進展している
本研究において具体的な課題は以下のようなサブテーマから成る。1.厳密数値計算に基づく簡単な分子についての分析。(厳密数値計算)2.解析的手法に基づく理論の厳密化と簡便な解析手法の開拓。(簡便な手法)3.散乱断面積などの情報から標的分子構造決定のアルゴリズム開発とその高効率化。(構造決定)1、2のサブテーマについては得られた結果を学術論文として発表し、また、3については計算コードの改良を行い、予備的結果を国際会議の招待講演において発表した。以上により、研究の目的はおおむね順調に進展していると考えられる。
各々のサブテーマについて、以下のように研究を推進する予定である。1.(厳密計算):原子核を固定した模型での電子ダイナミクスについて分析を行う。また、核と電子の運動を全て取り入れた H2+ のダイナミクスに関する計算コードと解析手法の開発を開始する。同位体分子 H2+、D2+、HD+ の質量比依存性の分析するための理論枠組みの構築を進める。 2.(解析的手法):トンネルイオン化電子の再衝突過程について、電子の運動とレーザー場の周期の比を断熱パラメターとした漸近解析の手法に基づく解析手法の開発を行う。これに基づいて、イメージングの基礎となる理論の精密化と超高強度レーザー場でのダイナミクスへの拡張をう。また、厳密計算との比較によって理論の精密化を行う。 3.(構造決定):分子構造決定のための参照データ構築用の分子散乱コードの最適化を行う。簡便な手法で得られるイメージングの基礎理論に基き、遺伝的アルゴリズム等によるフィッティング法を用いた構造決定の高速アルゴリズムのコード開発と最適化を行う。既存の実験データと比較し検討する。 比較的小さい分子について実験のシミュレーションを行う。
これまでに開発した計算コードの用いて大規模計算によるプロダクションランを開始する。そのため、高速解析装置を購入しチューニングを行う。また、得られた知見を国内外の会議で発表するため旅費として使用する。
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