研究課題/領域番号 |
23540469
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
立川 真樹 明治大学, 理工学部, 教授 (60201612)
|
研究分担者 |
吉村 英恭 明治大学, 理工学部, 教授 (70281441)
|
キーワード | 量子エレクトロニクス / 原子光学 / レーザー冷却 / 蛋白質 |
研究概要 |
光で観測される反射・屈折・干渉などの光学現象を原子の物質波において実現する原子光学において、回折格子は最も基本的な素子の一つである。しかし、原子線のドブロイ波長は、レーザー冷却された低速原子線でもナノメートル程度であり、有意な回折角を得るためには、サブミクロン以下の格子定数が必要となる。そこで我々は、生体物質が自己組織化によって合成するナノ磁性粒子アレイに着目し、従来の超微細加工技術の限界を超えた精密な周期構造を実現する。磁性粒子配列が形成する周期的ゼーマンポテンシャルが、物質波に対して回折格子やフォトニック結晶として機能することを、レーザー冷却された原子線の散乱実験と理論解析から検証することが本研究の目的である。 23年度までに、レーザー光の強度や照射時間を調整することでCs原子ビームの速度や温度の制御を行い、温度3~5 mK・重心速度4 m/s~10 m/sの原子ビームを生成することができた。24年度初頭に、この結果を用いてフェリチン回折格子による回折実験の実現性を評価し、visibilityよく回折縞を観測するためには初期温度をさらに低温化すること、加熱効果なしに原子を加速することが必要であると判断した。そこで今年度は、ドップラー冷却以上の冷却が可能な偏光勾配冷却(PGC)の導入を試みた。 予備冷却として磁気光学トラップ(MOT)を行った後、磁場を遮断しレーザー光の離調を大きくとることでPGCを行うことができ、典型的には原子を数十µKに冷却することができる。原子雲の挙動から、PGCによって原子集団の拡散が抑えられ冷却されていることが確認できた。 一方、フェリチン蛋白質の自己組織化により生成する酸化鉄(Fe3O4)粒子アレイは、磁場勾配を利用する新たな方法により、鉄コアの充填率を80%以上まで向上させて1ミリ角程度のものができるようになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画は、原子回折格子の実験と周期場中の原子波伝搬の理論解析からなる。前者においては、磁気光学トラップにより生成した極低温Cs原子集団を重力または放射圧により加速して低速原子線を生成し、磁場を印加した2次元磁性粒子アレイに入射する。斥力ゼーマンポテンシャルに散乱された原子線の空間分布をイオン計数により高感度に検出し、フェリチン結晶が回折格子として機能することを検証する。 23年度までにドップラー冷却原子線を開発したが、さらに冷却温度を下げるために、偏光勾配冷却を取り入れることにした。24年度当初の計画では偏光勾配冷却を経たうえで、原子線源、ナノ粒子ターゲット、散乱原子の検出系を真空槽内に統合し、散乱実験に着手する予定であった。しかしながら、レーザー冷却用光源である半導体レーザーが不調となりドイツ本国での修理を余儀なくされたため、原子線源の整備に遅れが生じてしまった。現在光源の修理は完了し、偏光勾配冷却が達成されたところである。
|
今後の研究の推進方策 |
25年度は、フェリチンにより生成した磁性粒子アレイによる原子線の散乱実験に着手する。回折格子は回転導入端子上に設置し、マイクロメータドライブによりその方位角度を精密に制御する。また、散乱された原子線を空間分解能よく高感度に観測するために、散乱方向にピンホールを配置し、その後方に表面イオン化用の白金線と2次電子増倍管を設置する必要がある。 理論解析では、磁性粒子列の上空に平行に入射した原子を想定し、原子波の伝搬特性を計算する。ポテンシャル分布から等価的な屈折率を計算し、Maxwell方程式を数値計算することにより原子波の振舞いを求める。一方で、磁化したナノ粒子が形成する磁場内を原子が運動する場合、その熱揺らぎがどの程度原子集団に伝搬するかを評価する。原子光学素子としての応用上は揺らぎの影響が小さいに越したことはないが、もし影響が大きい場合はそれを逆手にとって、冷却原子線をナノ粒子のマグネトメトリーに応用することができるかもしれない。
|
次年度の研究費の使用計画 |
25年度予算は、主として原子線散乱実験におけるターゲットステージやイオン計数装置などのハードウェアに充当する。
|