研究課題/領域番号 |
23540470
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
中原 幹夫 近畿大学, 理工学部, 教授 (90189019)
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研究分担者 |
大見 哲巨 近畿大学, 理工学部, 研究員 (70025435)
近藤 康 近畿大学, 理工学部, 教授 (40330229)
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キーワード | 量子コンピュータ / 中性原子 / 量子誤り訂正 / 複合量子ゲート / 国際研究者交流 アメリカ,中国 |
研究概要 |
本年度は昨年度に続き,中性原子量子コンピュータにおける選択的ゲートの実現の研究を行った。我々が昨年度に行った研究では,シリコン基板上に開けた光の波長程度の穴の直径を制御することにより量子ビットとして用いる原子と基盤の距離を制御して,これらの原資を1次元光格子にロードすることにより選択的なゲート操作を行うスキームを提案した。しかしこの方法では現在のコマーシャルベースの技術では幾分到達に時間がかかる技術を含んでいる。たとえばMEMSやLCOS-SLMなどの技術を使えば提案されているシャッターを実現することは現在でも可能であるが,要求されている動作時間が実現されるには若干時間がかかる。そこで,今年度の提案は昨年度の提案のいわば「ダウングレード」であるが,実験的には十分実現可能な提案を行った。それはトラップするためのレーザはオンかオフしかなく,したがってMEMSやLCOS-SLMなどの技術は必要としない。それにより,遠く離れた原子の間に1ステップでゲート操作をすることは不可能となったが,近接原子の間には簡単にゲート操作を行うことができる。沖縄科学技術大学院大学ので光・物質相互作用の研究を行っているSile Nic Chormaic准教授は,我々の提案の実現に興味を持っており,中原が沖縄を訪問し共同研究の打ち合わせを行った。 量子ゲートの忠実度を上げる研究と量子ビットにノイズ耐性を持たせる研究も合わせて行った。精度の低いゲートを組み合わせて精度の高いゲートを実現することは可能であるが,我々は2種類のエラーが同時に存在するときに,それを克服する高精度のゲートをできるだけ少ない基本ゲートで実現する方法を研究した。また,すべての量子ビットが同じノイズを受ける状況で,ノイズから守りたい量子ビットの数が決まっているときに,最も少ないアンシラ量子ビットでこれを克服する方法を研究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,中性原子量子コンピュータにおける選択的2量子ビットゲートの最初の提案の「ダウングレード」を図ることにより,実験家がその実現により興味を持ちそうな提案を行った。ダウングレードではあるが,これにより実際に実験が行われれば,さらに効率を上げる提案がなされるかもしれない。実際,すでに我々の提案の実現に興味を持つ実験家との共同研究が始まっている。我々はすでに数値計算を実行し,ダウングレードした提案でも,最初の提案により量子ゲートと同程度の実行時間で同じ忠実度が実現できるることを示した。結果は近々投稿予定である。 量子誤り訂正符号が正しく動作するには,それを構成する量子ゲートが高い忠実度を持たなければならない。量子ゲートは本質的にアナログゲートであり,その精度を上げることは決して簡単ではない。しかし,我々は2種類のエラーを同時に抑制する複合パルスの発見など,最初の交付申請書で提案した以上の成果を上げたと自負する。また,量子誤り訂正符号では,全量子ビットが同じノイズを受ける状況下で,より効率の高い符号化を発見したが。 我々の最初の提案では断熱変化を用いた量子制御を行うので,時間的に強い制約を受けるのであるが,別の科研費の研究テーマで,非断熱量子制御の研究を行った。これを本研究に応用すれば,量子ゲートの実装時間を飛躍的に短縮できることが期待される。この成果の本科研費への応用は来年度の目標の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
中性原子量子コンピュータでは,沖縄科学技術大学院大学の実験家Sile Nic Chormaic准教授と協力し,我々の理論的な提案を最もベーシックな方法で実験的に実現することを試みる。従来の断熱変化による量子状態制御はすでに数値計算を完了しており,現在論文執筆中であるが,それに加えて力学的不変量 (Lewis-Riesenfeld不変量)を用いた非断熱変化による量子状態制御の研究も行う。これにはプログラミングと数値計算が得意な大学院生Utkan Gundorduが研究協力者として参加する予定である。デコヒーレンス時間を考慮すると,我々の最初の提案ではゲート実装時間が長く,十分な量のゲート操作ができない可能性が高いが,原子の輸送などで非断熱制御を実行すれば,実行時間の大幅な短縮が期待される。 デコヒーレンスやエラーの克服では,従来行ってきた複合パルスによるエラーの抑制および量子誤り訂正の研究を継続する。特に量子誤り訂正では,従来の量子ビットにおけるノイズの抑制だけでなく,3次元複素ベクトルであるqutritや,そのd次元への一般化であるquditにおける量子誤り訂正も研究する。中性原子量子コンピュータで,2つ以上の超微細スピン状態を利用すればqutritやquditの実現は比較的簡単で,そのような状態を量子情報の担い手としたとき,これらの研究は重要となるであろう。また,それを念頭に置き,qutritやquditにおける複合ゲートの研究も行う。 平成25年度は最終年度であり,研究の集大成となるワークショップを理論家,実験家とともに行う。また,国内外の研究会に参加し,その成果を広く発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は本科研費の最終年度であり,この科研費で得られた研究成果を国内外の学会,研究会で発表すると同時に,近畿大学で理論家および実験家からなる中性原子量子コンピュータに関するワークショップを開催する。また共同研究,講演のために他大学の物理学者および数学者を招聘したり,こちらから訪問して議論する。したがって,主な経費は旅費と人件費,謝金となる。また,それ以外に資料整理を行う学生アルバイトの謝金,原子物理学,量子コンピュータ,ナノテクノロジー関連書籍の購入,平成23年度,24年度の科研費で購入したパソコン用のソフトウェアや機器のアップグレード,周辺機器の購入などに経費を使用する。
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