研究課題/領域番号 |
23540474
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
瀧本 淳一 山形大学, 理工学研究科, 教授 (50261714)
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研究分担者 |
SUKUMARAN S.K. 山形大学, 理工学研究科, 助教 (70598177)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 環動ゲル / スリップリンク / 応力ひずみ曲線 / 分子動力学 / 膨潤 |
研究概要 |
環動ゲルの非線形弾性について、2種類のモデルを用いて調べた。1つは絡み合い高分子に対して我々が以前開発したスリップリンクモデルの拡張であり、環動ゲルにおける架橋(架橋点において分子鎖が自分に沿って動けることを特徴とする)をスリップリンクで表現する。各分子鎖に沿って張力は一定であるとし、各スリップリンクにおいて力のつり合いが成り立つという条件で緩和させ、平衡構造を求める。その後全スリップリンクの位置をアフィン変形で移動することで一軸・二軸および平面伸長変形を加え、そこから再度緩和させた後に応力を測定することで応力-ひずみ曲線を得た。その結果、異方性の強い一軸・平面伸長においては、化学ゲルのモデルであるneo-Hookeanモデルと比べ応力が低下し、これが滑車効果によるものであることを示した。しかしこれは実験で報告されている結果(環動ゲルがneo-Hookeanモデルで記述出来るという結果)と整合しないため、分子鎖上に残っている未架橋の環状分子の並進エントロピーの弾性への影響をモデルに加えた。その結果、架橋間にわずかな個数の未架橋環状分子があるだけで、応力-ひずみ曲線はneo-Hookeanのそれに近づくことがわかった。より現実に近いモデルとして、高分子鎖を環状分子により架橋したゲルネットワークを実際に分子動力学シミュレーションで実現して応力-ひずみ曲線をしらべた。その結果、作成するネットワークがたとえばダイヤモンドゲルのような規則性の高いネットワークの場合、化学ゲルとの違いは小さいが、ネットワークの不規則性・不均一性が増すと化学ゲルとの違いが顕著になることがわかった。また、高分子材料に塗料を塗布する際材料表面に構造形成が生じる問題を、絡み合い高分子ネットワークが溶媒により膨潤することによるものとして調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環動ゲルにおける未架橋環状分子の影響、ゲルネットワークの不規則性の影響を明らかに出来たのが本年度の主な成果であり、環動ゲルに関してはかなり理解が進んだと考えている。紐状ミセルに関しては、分子鎖組み替えモデルによるモデル化と予備計算を行っているが、信頼出来る結果を得るには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
環動ゲルについては、スリップリンクモデルに架橋点の位置の揺らぎの効果を取り入れること、大規模な分子動力学計算で不均一性の影響を定量的に調べること、を行っていく。また、これまでの計算では分子鎖末端は分子鎖の張力のためスリップリンク(あるいは環状分子)に固定されていると仮定していたが、膨潤度が低い場合は末端がスリップリンクから出て自由に運動する(絡み合い高分子のレプテーションに類似)可能性があり、それにより特に低ひずみでの応力が大きく低下する可能性があるので、これについてもスリップリンクモデル・分子動力学シミュレーションの両面から調べる。紐状ミセルについては、開発中のモデルによる線形粘弾性の計算を完成させ、実験と一致する結果が得られたら、非線形粘弾性へと拡張していく。また、分子動力学シミュレーションによる再結合確率の予測を行い、分子鎖組み替えモデルのパラメター決定に利用する。
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次年度の研究費の使用計画 |
分子動力学計算用の計算機の購入、代表者・分担者が国際会議(ポルトガル、8月)で発表する旅費、成果公表費、などに使用する。
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