研究概要 |
近年の放射光利用技術の進歩およびX線自由電子レーザのような新しい光源の利用により、軟X線領域における分光学が急速に進展した。本研究では私が今まで培ってきた研究ノウハウを生体分子系に応用する。生体分子系に特徴的な物性の1つであるX線自然円二色性分光法(XNCD)と、近年新しい光源であるX線自由電子レーザを使った研究のうち特に注目されている内殻二重イオン化状態(DCH)の計算手法を構築する。まずXNCD法について述べる。本年度は密度汎関数(DFT)法レベルにおいてXNCDスペクトルを理論的に計算する新規コードの開発を行い、これを密度汎関数法計算プログラム"StoBe"に組み込んだ。次に最も単純なアミノ酸であるグリシン、D-,L-アラニンに対してテスト計算を行った。グリシンはD,L体の区別がなく、XNCDスペクトルピークは消失するが、アラニンはD,L体においては両者の強度は反転する。またスペクトル強度の基底関数依存性、汎関数依存性についてチェックした。さらに配座依存性について考察した。次に、DCHの計算手法をDFTレベルにおいて行った。まずホルムアミドにおいて非経験的分子軌道法, DFTにおいてDCH状態の精度について調べ、DFT法は化学的議論に十分耐えうる手法であることを確認した。本手法を様々な系に応用した。生体分子の例として、核酸をターゲットとした。次に正孔間距離に対する依存性を調べるためSiF3(CH2)nSi(CH3)3(n=0-4)に対し、計算を行った。またSiX4(X=H,F,Cl,CH3)において、K-2, K-1L-1, L-2殻励起において計算を行った。DCHの理論研究において、計4報の論文(そのうち本科研費の補助機関で2報)を発表した。
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